拍手、ありがとございます。
お礼に、小話をどうぞ。
「貴女は一体、私の何処が気に入りましたか?」
「………どーして、少佐は忘れた頃に、そういう話をし出すのですか」
キンブリーが仕事の合間に、しばらくぼんやりと私を眺めていたと思えば、急にそう訊ねてきたのでした。
真面目にデスクに向かい、紙とペンで仕事に挑んでいた私は溜め息を溢す。
勿論、意思表示の為に大袈裟に。
「はぁ〜…。さあ、少佐、お仕事しましょう。残業ばかりしていたら、どこからか鋭い文句や遅効性の嫌みが飛んできますからね」
「もう終わりました」
「マジで!?」
私は衝撃に駆られ、椅子から立ち上がると、キンブリーの側まで駆け寄った。
キチンと片づけられた机の上。
その机の端に積み重ねられた書類束を、パラパラと高速で確認する。
確かに終わっている。
サインも、判子も完璧だ。
ちらりと上官を見れば、静かにドヤ顔になっていた。
てっきり、仕事の合間の休憩をとっているものだとばかり思っていたのに。
ただただ暇を持て余していただけだなんて。
同じ量をこなしていた私は、まだゴールが見えないのに。
「むぅ…」
悔しいデス。
「それで、私の質問の答えはどうしましたか?」
「大変!少佐のお仕事が終わったのでしたら、私の仕事が増えるって事なのです!なので、これらの書類を各部署に運んできま…アウッ!?」
書類を抱えて、部屋から逃げ出そうとしたら、首根っこを掴まれてしまった。
「質問に答えて貰えないと、この後の仮眠に差し障るではないですか」
「でしたら、一服盛ったお茶でもお出ししますよ。オオカミさんのスプーン一杯は効きますよ〜」
スプーンの代わりに、左手の人差し指を振って言ってやる。
すると、その左手を取られた。
キンブリーは、悲しげに指先に唇を当てる。
「相変わらず、意地悪な女性ですね」
「意地悪してるつもりはないです」
「その気もないのに、そんなつれない態度をとれるとは。案外、貴女はサディスティックな性質なのでしょうか」
言いながら、私を見下ろす男の目。
普段から比べたら、今の彼の目は感情が大人しく感じられた。
「………少佐、何かありました?」
「ありませんよ」
小さく答えながら、指に指を絡ませ、そして唇を寄せて、離すまいとする。
「なにか無いと、愛を確認してはいけないですか?」
「いけなくはないんですが、恥ずかしい、ンですって」
その行為が当たり前と、私の体に巻き付く男の腕。
確かに、当たり前の行為なので、私はその腕を大人しく受け入れた。
なんだか、いつもより柔らかく抱きしめられている。
「貴女はいつもそればかり。そのクセ、放せとは言わないんですね」
「放してくれないクセに…」
「ふふ、良く分かっているじゃないですか」
キンブリーは、私の白い髪に頬を擦り寄せる。
まるで、私が愛犬にするようにだ。
ええ、いいですよ。
ええ、ええ、いいですとも。
必要なら、癒しの愛玩犬役くらい演じて差し上げますよ。
「あーあ。仕事に真面目なところが好きだったんですけどネェー」
どうせ、自分の気持ちは素直に言葉に出来ないのだから。
「だから、仕事してくださいね」
私は、自分を抱きしめる男耳元でそう囁いて、彼の背中に手を回した。