090201*鏡は粉々にしてやった。

寝息が聞こえる。ひどく規則的に続いている。その音が聞えてくる方へ視線を巡らすと、赤くて不思議な生き物が視界に入った。音の原因。根源。その規則的な音を聞いていると、どうにかソレを壊せないかと、どうにかソレを自分に取り込むことが出来ないかと、そんな考えが全身を支配しはじめる。ふと鏡を見れば、そこにはとんでもない悪魔が映っていた。その悪魔はけれども愛しい。それが自分であることなんかには気付くはずもなく、そうっとその赤くて不思議な生き物に近づいた。頬に触れて微笑む。そこから指を下へ下へゆっくり移動させれば、悪魔のような色をした手が白くてやわらかな首へ絡み付いていく。その手に少しずつ力を込めると。あぁ、なんて、
「先輩…」
無意識に零れた言葉に意識を削がれる。先輩?なんだそれは。そんなものは知らない。知らない。知らない。(ー…懐かしい)誰かの声が頭の中に響く。誰だ、とても忌々しい声。痛い。(懐かしい言葉)知らない。知らない。(知っているはずだ)覚えていない!(口に馴染む)知らない、苦しい、憎い、痛い、(愛している)違う、愛しているのは自分だけ。(誰よりも)信じられるのは自分だけ。(誰よりも)自分だけ。(アンタだけ)
何が起きているのかわからない。鏡に映った悪魔は首に手をかけたまま苦しんでいた。その言葉の響きの所為で頭が割れるように痛い。自分が知らない奴に思えて怖い。折り重なる心が痛い。痛い。痛い。痛い!痛い!!…助けて、せんぱ、
「…赤也……?」
それは、一瞬だった。








鏡に映っていた悪魔はいなくなっていた。痛みも怖さもなくなっていた。あるのは愛情だけ。
首から手をゆっくりと離し、確かめるように抱き締めて、確かめるように呟く。
「先輩、…先輩」
ああ、知っている。
「どうしたんだよ」
覚えている。
「先輩、先輩…」
懐かしい、その言葉。
「……」
愛している。
「…先輩、先輩」
誰よりも。
「…赤也」
誰よりも、
「、先輩」
アンタだけ。





〇赤也のブン太に対する愛情は捻くれていて純粋で狂っていて真っ直ぐ。

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