celebration

□せーので奇跡をおこしましょう。
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はじめて触れたそれは、

甘くて苦くて温かくて
ああ彼そのものなのだと、思った。


せーので奇跡をおこしましょう。





お昼時。
場所は志村家。

互いに休みということもあり、土方と新八は朝から志村家でほのぼのとした時を過ごしていた。
ちょうど今、昼ご飯が終了したところである。


「あー、食った食った。ごっそさん」


「お粗末様です」

カチャカチャ音をたてて新八が空っぽの皿を重ねていく。
何やら、上機嫌にみえた。

「……………土方さん」

「あ?」

「…その、おいしかった、ですか?」

それはもう。
こんな美味しいものを万事屋連中はいつも食べてるのかと思うと嫉妬しそうなほど。

しかしそれを彼に伝える術を土方は持ち合わせていなかったので、とりあえず普通に返事をすることにした。ややいつもより、笑顔で。

「……美味かった」

「…っ。…ありがとうございますっ」

えへへ、なんて照れくさそうに食器を台所に運んでいく。
その後ろ姿が、

(…………可愛すぎる)


1ヶ月前、新八をこの腕にゲットした自分グッジョブ。
もしかしたら一生分の幸運を使ってしまったかもしれない。
(………それは駄目だ。半分はプロポーズに残ってほしい)


そんな、くだらない想像。してるだなんて君は、きっと知らないだろう。

君の前で大人ぶる俺の本性は、本当はすごく小さい。


「お茶、持ってきましたよ」

「お、わりぃな」


ずずず。
屯所より色素の薄い茶。でもどこよりも美味しいであろうお茶。

(こういうの、何てんだ?恋人バカ…?)


ああまあ確かに間違っちゃいない。バカになるほど新八は土方にとって大きいのだ。


緩やかに時は過ぎる。


「…お前、ちゃんと食ってんのか?」

「え?」

「細ェ体」


自分で言って心臓が高鳴った。


からだ。

急にその袂の下を意識して、高揚して、なんとも情けない。

(まだ、手さえ触れてねぇのに…!)


中坊か俺は!!とぐるぐるまわる土方の頭をよそに新八は平々凡々のほほんと答える。


「細いって……失礼な。ちゃんと食べてますーだ!」

いつか土方さんよりがっしりした体になってやると意気込む姿に(それはご遠慮頂きたいと思いながら)、たくさんの想いが溢れる。
それは可愛いとか、愛しいとか、そんな感情も確かにあったのだけれど、たぶん一番は、中学生が抱くような。


2人を隔てていた唯一の障害のテーブルに手をつき、乗り越える。ついでに卓上に置かれた新八の手をかっさらって。
湯のみを転がさないよう、慎重に、かつ勢い良く。


鼓動が、あふれそうだ。


(……もし溢れたら、お前は気づくだろうか)

君に対する想いの大きさに。


目を見開く新八に、土方は小さく、キスをした。


キスといっても、バードキスにも満たないような、ただ唇と唇を合わせただけの可愛らしいキス。

満ち足りるような、足りないような、キス。



ただそれだけなのに、至近距離で見つめ合った2人は、熟れたトマトのように赤かった。



瞳が互いに右往左往。
なんとなく気まずくて、なんとなく甘い雰囲気に引き込まれそうで。
結局、土方の目は庭へ、新八の目は畳の編み目へ。

頬の熱が下がるまでそうしていたのに対して、テーブルの上で合わさった手は徐々に、かたく、結ばれていた。



そうして五分後、どちらからともなく2回目のキスをすることを、このときの2人はまだ知らない。






end.
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