celebration

□甘く痺れて、まっさかさま
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外での振る舞いを見てる限り、やっぱりどうしようもない人だけど、ある程度できた人ではあるのかなと思う。
そう、思うのだけど。


「新八ぃぃ、いちごぎゅ」「駄目です」「えええー、銀さんいちご牛乳摂取しないと乾いて死にそー」


どんな症状だ。
新八はぴきりと怒りマークを頭にくっつかせながら心の中で吐き捨てた。

「そんなに乾きそうなら水飲んで下さい水」

「やだ、水摂取するくらいなら新八摂取する」

「意味わかりません」


イライラ数値が止まらない。ため息だってつかなきゃやってられないというものだ。

「新ちゃんため息〜?だめだよ幸せ逃げるよー」

「……誰のせいだと思ってんだマダオがァ!!!」

――どうして家だとこうなってしまうのか。

ああ、ほんとにイライラする。


甘く痺れて、まっさかさま







ざりざりざりざり。
心なしかいつもより力のこもるお米研ぎ。
しかし研ぎ汁をとっておくのを忘れないあたり、新八が新八たる由縁である。


(全く、仕事もしないでだらだらだらだらと!あれじゃほんとにマダオじゃないか!)

米を潰さんばかりの力強さの理由は彼の上司であり恋人である、銀時だ。
今も銀時はソファの上で絶賛リラックスタイムである。


「ったく、もう」

坂田家の米消費量は半端ではない。
米を何合炊いてもあっさり胃拡張娘に平らげられてしまう。
新八はそれでは体に悪いとご飯制限をかけているのだが、それでも大量に食べることに変わりはない。

米櫃の底は見え始めている。

新八が財布の中身と米の値段を睨み合わせたその時、


ずしっ。


左肩に重み。



「……………銀さん」

「新八ー」

見れば銀時の頭が新八の肩に乗っていた。ぐるりと腰に銀時の腕がまとわりついて、身動きが取れない。

「何ですか、僕、米研いでんですけど」

「知ってる。……てかお前研ぎすぎじゃね?米貧相なんだけど」

「…………そんなこと無いです」

「何今の間」



新八はそれに答えず、手から米粒たちを叩き落とした。


「あ、もしかしていちご牛乳ですか?だめですってば、昨日一本飲んじゃったでしょ?」

「…あー、いやまぁそれもそうなんだけど」

ぐるり回している腕に力がこもる。ぴったり密着状態。

「むしろ新八摂取がしたいなぁ、なんて」

「……………は?」

そういえばさっきもそんなことを言っていたような。
新八の頭に疑問符がめぐる。
摂取って、どういうこと?


そんな疑問符をキャッチしたのか、銀時はにたり笑った。

「つまり、そーだな、ちゅー?」

「っは!?」
「あれ、もっとスゴいのが良かっ」「良いわけあるかぁ!!」


かかかか、と新八の頬がどんどん熱を持っていく。
銀時はその様子をまるで観察するかの如く眺めた。可愛くてどうにかなってしまいそうであるが、我慢。


「な、んでまた」

「何でって、…したいから?」


いつの間にか方向転換させられ、新八は銀時と向き合うかたちになっていた。
肩を掴む大きな手が、逃がしてくれそうもない。

少し悩んだ末、心臓の五月蝿さに負けないように、新八は色んなものを振り絞って銀時と目を合わせた。


「どっ、どうぞ、摂取して下さい」

半分睨みつけるように銀時を見据え、気をつけのかたちだった手に銀時の着流しを掴ませた。

銀時にしてみればうるうる上目遣いである。


「…その代わり、後でお米買うの、手伝って下さいよ」


その瞬間、銀時のなかで何かが爆発した。


「もちろん」


そう言うのとほぼ同時に、新八の唇に噛みついた。






―――その後興奮した銀時に鼻フックデストロイヤーがお見舞いされたのは、当然のことで。

しかしキスひとつでそれまでのイライラを帳消しされてしまった新八は、どことなく理不尽な感じがしてならなかったのであった。






end.
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