celebration
□七彩ベーゼ
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君のからだが溶けてく妄想。
七彩べーゼ
へたくそな鼻歌。
それとは対照的にぱたんぱたんリズムよく畳まれていく洗濯物。
魔法のような指先に俺の着流しが摘まれ、折りたたまれていく。
――――いちばん幸せな時間。
新八が誰のためでもない、俺のためだけにしてくれる時間。彼の時間を自分が占領している、それだけで俺の心は幾分満たされた。
逆に言えば、彼の時間が自分のためでないとき、俺の心はすっからかんになって。
ごろんとソファの上で小さく寝返りをうつ。…と、電話が鳴った。
「はいはーい」
和室からぱたぱた駆けてくる音がどんどん近づき、一番電話の近くにいた俺を一睨みして新八は電話を取った。
「…はい、万事屋銀ちゃ…………あ、山崎さん!」
(!)
…………ジミー?
予想していなかった電話の相手に内心盛大に舌打ちする。こんなことなら俺が出ときゃ良かった。
楽しそうに受話器を掴む新八を恨めしげに眺める。くそ、早く切りやがれ。ジミーなんかに、新八の、時間が。
俺のための時間が!
「…来週ですか?」
ぴくり、ジャンプを持つ手が痙攣。
「何でまた………あ、バドミントンですか!」
のっそり立ち上がる。
愛読者はソファに置き去り。
「山崎さん、来週は」
ガチャン。
ツー、ツー。
「…………………銀さん?」
心底訳がわからないという顔で新八が俺を見る。俺は電話を切った手で受話器を取り上げ、固定位置に置いた。
新八の顔が驚愕から怒りに変わっていく。
そりゃそうだ。新八に非なんて無いのだから。
(…本当にそうか?)
いやいや、今のは新八も悪い。一番悪いのは俺だけど。
最初の怒号が飛ぶ前にその口を塞いだ。
「っ!!?」
新八は完全にパニックになったらしく、じたばたと逃れようともがく。全然効果は無いけど。
はじめはんーやらむーやら拒否の言葉を必死に発していたが、それらを無視していくとだんだん大人しくなった。
苦しさか何かで新八の目に涙がうっすら溜まり、ずるりと少し力が抜かれた。
俺はその瞬間を見逃さずに、一気に新八の体を抱き上げ社長椅子に落とす。
思いきり何するんだ馬鹿野郎というような目で上目遣いされたが全く怖くない。
とりあえず何かを言われるまえにまだ息も絶え絶えな新八の口にもう一度口付けた。
「……っん、ぷは!な、ぎ、」
「ジミーと会うの?」
「!」
新八が何か言いかけたが、それを塞ぐように俺の言葉は止まらない。
「2人で?2人っきりでミントンすんの?何それ浮気ですかコノヤロー。」
「ぎんさ……っつ!」
「なんで?」
ギリリと新八の腕を掴む力が強くなっていく。このまま握りしめ続けたら、折れそうだ。
「何であんな奴に新八の時間を割くの?勿体ねぇ。新八の時間は、俺たちの…俺のもんだろ?新八の時間を、他の奴に独占されるなんざ俺が許さねぇ。新八の時間を独占していいのは、俺だけ……!」
言いかけた言葉は唇にやけに柔らかい感触にかき消された。
その正体に気づいた瞬間、左頬に拳がめり込んでいた。
予想しなかった攻撃に俺は馬鹿みたいに吹っ飛ばされる。
「………………何をふざけたこと言ってんですか」
ゆらり、背後に黒いオーラを背負った新八が社長椅子から立ち上がった。あれ、怒ってる?
「し、しんぱ」
「いつから僕の時間は他人のもんになったんですか。僕の時間は最初っから最後まで僕のもんです。どう使おうが僕の勝手でしょ」
「………」
「…それにあんた、勘違いしてますよ」
「は?」
「バドミントン、僕行きませんよ」
「え」
忘れたんですかと新八から呆れ声が降ってきた。
「来週は依頼があるって。少し長期なので来週は予定入れられないんです」
「…あれ?そーだっけ?」
「そーだよ!ったく、ちゃんとして下さいよ銀さん」
新八がてこてこ歩いて情けなく座る俺の前で膝を折る。
「…………あともう一つありました。…僕の時間は、僕のもんです。でも、僕は他の誰かよりあんたらに自分の時間を割きたい。…実際あんたらの為にしか時間を割いた覚えはありませんよ」
新八の左手が殴った頬をなぜる。着物から覗く腕には赤く俺の握った痕が残っていた。
痛々しく見えるそれを見続けられず、俺は恐る恐る新八の顔を見る。
新八は、微笑んでいた。
「……新八」
ぎゅうと引っ張って、抱きしめる。
力任せじゃなく、少しだけ力を緩めて。
「……ちょっとだけ、嬉しかったです」
「………え?」
「だって、やきもち、でしょ?」
なんて、嬉しそうな声で言うから。
俺は少し、力を強めざるを得なかった。
end.