celebration
□不足、
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01:睡眠不足(沖田)
「寝不足なんでさァ」
「…はぁ」
だから何だ。
嫌な予感をひしひし感じつつ、新八は沖田を半見する。
買い物帰りの新八の指は袋の重さでぷるぷるし始めていた。
こんな黒い服の男など知らん顔して帰ればいいものを、新八はそれが出来ないので男と対峙せざるを得ない。新八の生まれもった人の良さと、沖田の通せんぼによって。
「ちょっと来て下せェ」
「っえ、ああ!ちょっ」
ひょっと買い物袋をかっさらわれた。
なにこれ重、と小さな呟きが聞こえた。
中には今夜のおかずに変身するはずの食材たちが入っている。取り返そうにも新八の腕力では無理だろう。
悔しさをちらと感じながら新八は沖田の後を追った。
(重さで腕がしびれちゃえばいいのに)
…しかしてそうもいかず。気づけば新八は公園のベンチへ連行されていた。
「どっこいせ」
「!?ちょっと何してんですかアンタ!」
「膝まくら?」
「それは分かるわ!!何で……」
「最初に言ったじゃねェですか、俺ァ寝不足なんでィ」
沖田は新八の膝の上を少しごろごろし、落ち着く場所を見つけたのか目を瞑った。
そして瞬く間に寝息。
(………え、あれ、ね、ちゃった?…ええ!嘘!早っ!!!)
お前はどこぞの小学生か!と突っ込みそうになるのをぐっと我慢。
むしろ起こしてやればいいのに、出来ない自分に溜め息をついて、隣にちょこんと座る買い物袋を見る。
豚肉に、ネギに、玉ねぎ、ごま油、その他諸々にいちご牛乳。重くてしょうがない中身を考えてうんざりした。しかもこの量はほぼ一回の食事にカウントされる。
(少し制限しなきゃなぁ。本当に銀さん糖尿病なっちゃうし、僕の指にも限界ってもんが………………!)
はたと気づいて買い物袋を持っていた右手を握って開く。
(…もしかして)
「…沖田さん、僕を気遣って……?」
まさかそんなと思いつつ自らの膝の上で狸寝入りする男に問いかける。
徐々に徐々に、その頬が赤く染まって―――
「………………………言っただろィ、俺ァただ寝不足だっただけでィ」
そんな不機嫌な声で。
くすりと笑みがこぼれた。
「……そーですか」
お礼を今言ってはいけない気がしたから。
(そういうことに、しておきますよ)
時刻は、午後5時。
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