treasure

□[続・秋薫慕情]
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ひらり。ひらひら。
舞う金木犀。

ふわり。ふわふわ。
散る銀木犀。



[続・秋薫慕情]



その甘やかな薫りに惑わされ、互いに踏み出す第一歩。




一護は、自然早足になる自分を自覚し苦笑した。

―――どんだけアイツに逢いたがってるんだ、俺は…。

然しながら本心は偽れない。
逢えるのならば、一刻も早く逢いたい。
喩え想いを伝える事が出来なくとも。




雨竜は、無意識の内にその霊圧を探っている自分を自覚し苦笑した。

―――まったく、どれだけ逢いたいんだ。僕は…。

こんなの狡いと思いながらも本心は偽れないから。
逢いたいと思い立った瞬間から、どうしても一目その姿を目にしたくて。
喩え言葉を交わす間も無いような、ほんの一瞬であったとしても。




「―――――あ…」

ふわり、と。
目の前に舞う一輪の小さな小さな橙色に、雨竜は思わず足を止めた。

来し方をその目で辿れば、頭上に広がる橙色の小さな花々。

―――まるで、夜空に瞬く星たちみたいだ。
甘い薫りに包まれながら、雨竜は暫し魅入られていた。




「―――――あ…」

ふわり、と。

鼻腔を掠めるその薫りに一護は瞬間足を止めた。

甘い薫りに誘われる儘、そして一歩を踏み出した。

―――まるで、アイツに向ける想いみてぇだ。

何故だかその薫りが、自分を導いているような気がして。




半ば駆け足気味に辿る薫りの先。

愛しの君は、其処に居た。


ひらひら舞う小さな橙色。
辺りを包む甘やかな薫り。

金木犀の木の下で、佇む雨竜は微笑みすら浮かべていて。


―――夢、みてぇに…綺麗だ…。


ふと、その視線が小花の群生から外されて。
一護へと、向けられる。

さながらスローモーションの様に一護の目には映る一連の動作に、知らず一護は息を呑む。

「―――――黒崎」

僅かばかりの驚きを含んだ声が自分を呼ぶのに、突き動かされる衝動に従って一護は口を開いた。



「石田…―――好きだ」



一護の視界の先で見開かれる瞳にすら魅入られて。

「俺、お前が好きだ…」

 喩え想いが叶わなくとも
 どうしても伝えたかった。

半ば諦めすら窺わせる一護だが、それでも一途な想いは滲んでいて。


「―――――夢、みたいだ…」


ぽつり、と。
雨竜が落とした声は、何処か夢心地の様相で。

普段の声より柔らかかった。

「僕も…―――君が好きだよ、黒崎」


ふわり微笑むその顔で。
柔らかい声色で。
甘い薫りの満ちる中、一護の耳に届いた言葉に衝動の儘に一護は雨竜を抱き締めた。

「石田…っ、好きだ」
「うん。僕も…好き、だよ///」

ほんのりと頬を染め、腕に納まる愛しの君に一護の胸に満ちる幸福。



 ひらひら ひらひら

想いの通じた彼らを祝福するかの様に
二人の頭上を舞う金木犀。
片隅に密やかに咲く銀木犀に見守られ、今、第一歩を歩み出す。





2010.10.05

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