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□馴れ合いごっこ
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幸せの定義





馴れ合いごっこ





断じて恋ではない。
そんな綺麗なものであっていい訳がない。
けれど、だから、例えば君のからだに触れる行為は、生き物が傷を舐め合うような。この世が食物連鎖で構成されているような。そんなごく当たり前で、残酷なことだと認識している。


「土方さん、お夕飯できましたよ」

「おお」


にこやかに告げる新八に返す笑顔はまだぎこちないらしい。そんな俺に新八はまた笑った。
新八は綺麗な球体だと思う。概念的に。
色は淡くくるくるとめまぐるしく変わって、周りを明るく照らしてしまう。
まぶしくて、それでも目を離せない。

まるで今の俺は盲目になったよう。



夕飯は肉じゃがと、ほうれん草のごまあえ。
季節ものがいっぱい入ってるんですよ、というのは新八の解説だ。
新八の前には皿が一枚。俺の前には皿が二枚。普通に食べる用とマヨネーズをかける用だ。

「いただきます」

「どうぞ」


心臓の下あたりがこそばゆい。
幸せというやつだ。きっと。

俺たちは付き合っている訳でも何でもないけれど。





視線が追う。追われる。絡み合う。
一緒にいることが互いの望み。
それだけ。
確かな言葉なんてこの関係には無い。

だからこれは恋ではないのだ。
馴れ合い、そう、これは馴れ合いだ。
何か暖かみが欲しくて、それが互いのからだだったというだけ。


「ご馳走さんでした」

「お粗末様です」


カチャカチャと食器を片付ける音。


「…土方さん」

「あ?」

「……いえ」

なんでもないです。


嘘だと分かっていたけれど、流してしまった。
俺たちの関係は相手に踏み込み辛い。踏み込んでいいのかと躊躇してしまう。



からだを求めれば、拒否なく夜は進む。
この関係は突き詰めればそういう関係だ。時々新八の目に何かが映るけれど、それは見ないふりをして。



結局、臆病なんだ。
この関係に名前をつけるのが怖い。この気持ちに名前をつけるのが怖い。
曖昧なぬるま湯の居心地の良さに沈没している。
このぬるま湯も、新八の存在によるものなのに。
新八がいなければここはただの冷水。


「たしかなものがほしいよ、土方さん」


眠る間際に言った新八の言葉にも、耳を塞いだ。


恋は儚い。
直ぐに破れてしまうイメージなら持ちたくない。
だから、


「…ごめんな」


この気持ちを恋と、この関係を恋人と名付けて
しまったら、何かが終わって始まってしまうから。

それでも俺から離れない君に甘えてごめん。







end.
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