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□ユピテルの華を贈りませう
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「今日は母の日なのよ」



ユピテルのを贈りませう







5月8日。
定春と散歩に出た神楽は奇妙なものを目撃した。
道行く人の手に赤い花が握られているのだ。子どもから大人まで、幅広い世代に好評!というどこかで聞いた宣伝文句が頭をよぎる。が、そういう類では無さそうだ。ならば何だろう、新手の宗教だろうか。


「…みんなニコニコしてるネ。ずいぶん充実した宗教みたいアルな」

「わんっ」

「姉御なら何か知ってるかもしれないアル。真相を突き止めて奴らをびっくりさせてやるネ!」


奴ら、つまり新八と銀時だ。
神楽は颯爽と定春に跨がり、一目散に志村家を目指した。




「今日は母の日なのよ」


神楽の話を聞いたお妙はおかしそうにそう言った。
ははのひ、という単語にハテナを飛ばす神楽にお妙は続ける。

「お母さんに、ありがとうって感謝を伝える日よ。そのプレゼントにカーネーションを贈るの」

「何でカーネーションアルか?」

「そうねぇ…どこかの誰かがお母様のお葬式で手向けたとか、よく分からないけれど」

ふぅむ。神楽は眉間にしわを刻んだ。

母の日。





神楽にとって母は2人いる、と言っても過言ではない。
今となってはお星さまになってしまったマミーと、心配性で過保護で口うるさい眼鏡。ありがとう、だなんてこっぱずかしくて言えないけれど。


(要はカーネーションを渡せばみっしょんくりあアル)


ポケットを探れば百円玉が一枚。
よし、といきんで花屋に向かった。









「ごめんねぇ、嬢ちゃん。それだけじゃあカーネーションは買えねえや」

花屋の親父は眉をハの字にしてそう言った。予想外の展開である。百円ですでに大金であるのに、花一本にそれ以上するなんて。花屋は子どもの敵。

「植物のくせに生意気ネ…」

「いや、何でこっち見ながら言うの?言っとくけどおじさん植物じゃないからね」

「……………」

「何その今知った風な顔」

「神楽ぁ?何してんのお前」

よく知った、というか毎日聞いている声が割って入った。

「銀ちゃん!このおっさん人間だったネ!」

「まじでか…」

「いやいやあんたら2人して初めて知った風な顔やめてくれない」

花屋の親父の声は神楽に届いているのか否か。結果的には華麗にスルーされている。そんなやりとりをしてる間に銀時は神楽の状況を理解したようで、にやんとやらしい笑みを浮かべた。

「ふぅーん、へぇ、なーるほどねぇ」

「…………な、何アルか」

神楽は動揺を悟られまいとするが、もう遅い。銀時はぐしゃぐしゃと神楽の頭をやや乱暴に撫でた。

「ぎん……」

「ほれ」

ぽとりと神楽の手のひらに硬貨が落とされた。きらりと輝く五百円玉である。

「かーちゃんによろしくぅ」

ひらひらと手を泳がせて銀時は気持ち悪い笑みのまま去って行った。何だか格好付けていたが、銀時の向かう方向にはパチンコ屋があったはずだ。とりあえずこのことをきちんと新八に報告することにして、神楽はカーネーションを見事ゲットしたのである。








四本のカーネーションが風に揺れる。神楽から母への分一本と、神楽、定春、銀時から新八への分三本だ。
伝わるだろうか?


「あ、」


万事屋までもう少し。
少し前を新八が歩いている。

「新八!」


呼んで、駆け出した。
つつじのいい香りがする。
今日は何だか素直になれてしまいそうだ。





いつもありがとう!



end.
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