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□見慣れた色に君が重なる
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Q,会いたくなるのは何故?
A,-----------------
見慣れた色に君が重なる
相も変わらず自分の世界は真っ黒で真っ赤。そのことを特に悲観したことは無いし、むしろ幸運なことだと思う。
この世界に存在するのが自分というものの証明。
「――――それにしても、天気が悪いなぁ」
雨でも降りそうだと天を仰ぐ、ついでに目の前の獲物の喉だと思われる箇所から頸動脈らしき管を抜き取った。間抜け面から血が噴き出す。赤い。
ぽいと汚れた管を捨てて別の獲物に蹴りを繰り出す。攻撃を喰らった天人が他の天人を巻き込んで吹き飛んで行った。どこか岩壁にでもぶつかった音がする。
(弱いなぁ)
手応えが無いとはこのことだ。まるでふにゃふにゃした菓子を相手にしているような錯覚に陥る。これならばあの青い惑星の住人の方が楽しめそうだ。
侍という種族。
いつか吉原で出会った銀髪の侍と闘う日を思うと、期待で体が疼いてしまう。それに、地球には、彼がいる。
がつりと嫌な音が響き、天人から赤が飛び散る。と、血飛沫の隙間から花が見えた。何者にも汚されないような白い花。誰かさんに似ていると思ったら笑いが込み上げて
しまった。
「ああ、まずい、会いたいなぁ」
天人たちを蹴散らしながら呟く。
とりあえずこの仕事をさっさと終わらせてしまおう。
「………で、何で家にいるんですか神威さん」
「会いに来たに決まってるじゃない。とにかく何かご飯作ってよ、お腹すいた」
ぐるるると一際大きく主張する腹の虫。こういうところは兄妹そっくりだと新八は溜め息をついた。
早くご飯を与えないと殺されかねない。
昨日作った肉じゃがの余りと、それから適当に野菜を炒める。もとより冷蔵庫にはほぼ野菜しか入っていない。
「どうぞ」
「いただきまーす」
上機嫌でご飯を頬張る姿も兄妹そっくりで、なんだか敵であることをつい忘れてしまう。新八はいつも気を引き締めなければとお腹の底に力を入れるのだが、おかわりを無邪気に要求してくる姿にその力もしゅるしゅる抜け出て行くのが常だ。
流石に頬に付いたご飯つぶを取って妙な顔をされたときは死を覚悟したが。
「僕みたいなのに会いに来るなんて、神威さんも変な人ですね」
「うん、本当だよね」
「喧嘩売ってんですか。買いませんよ」
「いやいや、純粋に不思議なんだよ」
幾千の星に数えきれないほど
の生命体。それでも会いたいと思うのはたった1人。それもどこを取っても特殊な能力の無い少年なんて。
(…だから、かな)
何もない。だからこそ自分のような宇宙的に見ても奇異なものを、なんて。それは流石に買いかぶりかな。
ふと気づくとテーブルの向かいに座っていた新八の姿が消えていた。きょろきょろしながら茶を啜る、と台所の方から新八が大きな皿を持ってやってきた。何か白いものが乗っている。
「…あ」
「……誕生日でしょう。過ぎちゃいましたけど」
皿の上にはごろごろとお饅頭。以前神威が気に入ったものだ。
「ああ、そういえば。あれ?新八エスパー?」
「こないだ来たとき自分で言ってたでしょうが。祝えって」
「あー…」
言った、ような。
自分で言っといて、とぶつぶつ言う新八を横目にぱくりと饅頭にかぶりつく。
「うまいなぁ」
「…それは良かったです」
そう言うと新八はよいしょと居住まいを正した。さすが武家の息子らしく、綺麗な正座でぱきりと映える。
が、表情はふにゃんとした笑みを浮かべて。
「おめでとうございます、神威さん」
「………………」
「………神威さん?」
「…いや、新八すごいよね、
不意打ち」
「?」
何故なんて問いはきっと知恵の輪みたいなもので。
答えは思ったより、身近にあるんだろう。
end.