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□きらきらスワン
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「織り姫は白鳥に乗って天の川を渡って、彦星のもとへ行くんだよ」
「…白鳥もいい迷惑アルな」
本当に、白鳥って疲れる仕事だ。
きらきらスワン
「…だっからもう!なんでアンタはそうなんですか!!」
「うっせーんだよダメガネが!ちっせぇことでネチネチネチネチ、お前はなかなか剥がれない湿布か!」
「どんな例えだ!何度言っても直さない銀さんが悪いんでしょーがこの天パが!」
ぎゃいのぎゃいの。
五月蝿い煩わしい迷惑極まりない。
酢昆布の味だって悪くなってしまう。目の前で繰り広げられるいつもの光景にうんざりしながら、神楽は定春にもたれかかった。
さて今回の原因は何だったか。
トイレの水を流してないとか、銀時のズボンにティッシュが入ったまま洗ってしまって洗濯物がティッシュまみれとか、甘味つまみ食いとか、そんな些細なことだったような気がする。解明をしたところであまり意味は無いが。だって原因が何であろうと、これから先のパターンはもうお決まりなのだから。
「…ああもう!この分からず屋!いいですもう万事屋来ませんから!」
「…!あ、ああせーせーすらァ!」
「〜〜〜!!銀さんのばかぁっ!!」
そして鼻フックデストロイヤーを一発。
今日はいつもより強めに叩きつけたようだ。おおと感心してる間に新八は出て行ってしまった。
(…毎回飽きずによくやるネ)
小さなことで喧嘩して、新八が出て行く流れ。もう何回繰り返したか知れないし、端から見てるには全く危機感が無い。
少し間を置いて、鼻をさすりながら銀時が起き上がった。
「あー…くそ、いってぇ…」
少々涙目だ。
酢昆布がもう一箱食べ終えてしまったので、テーブルの上の煎餅に手を伸ばす。ばりんと音をたてれば銀時がこちらを見た。
「……何だよ」
「べっつに」
定春が呆れたようにあくびをする。
流石犬も食わないというか、飼い犬にも呆れられるなんて、情けない親父である。
そういえば今日は七夕だ。
最近ばたばたしていて、今年は笹を準備出来なかった。
白鳥の会話を新八としたのは確か去年。銀時が持って来た笹に短冊を飾り付けしていたとき。
『白鳥もいい迷惑アルな』
『そうだね、…でも白鳥はきっと2人が好きだからやってるんじゃないかな。そもそも白鳥が居なければ2人の逢瀬は成り立たないし、一番の功労者かもね』
『…………新八』
『ん?』
『きもいアル』
『えっ!?ひど!』
とんとんとんとんとんとん。
(…でもやっぱり、いい迷惑ネ)
だって2人が離れてなければ、白鳥はきっと嬉しいはずだ。そのための橋渡しなのだから。
とんとんとんとんとんとん。
銀時の指がテーブルを叩く音が部屋を埋め尽くす。
これだからマダオなのだ。
「………そんなに気になるならさっさと迎えに行けばいいアル」
「い、いや別に気になんてなってな」
「明日新八が私を迎えに来たら私はあっち行くヨ。そうなる前に行くヨロシ。それに今日の夕飯にへったくそな星形にんじんが入ってなきゃ許さないネ」
「………………」
銀時は言葉にならないうめきを左右に散らして、視線も右往左往。ぴきりと神楽のこめかみに青筋が浮かんだ。
すっくと立ち上がって銀時のすぐ横へ向かい、――思い切り玄関目掛けて銀時を蹴り飛ばした。
「早く行けや彦星」
ドガンと破壊音がしたが気にしない。
これで夕飯には星形にんじんがお目見えするはずだ。
肩の荷が降りたように、ぽふりと定春に覆い被さる。
「全く手間がかかるアルなぁ」
白鳥役も楽じゃない。
「お前も大変アルな」
曇って見えない先の星の集まりに
ぽそりつぶやきかけて。
「あ、酢昆布買ってくるように言うの忘れたネ定春ぅ」
「くん」
まぁ明日にでも買わせてしまおう。明日にはただのバカップルに戻っているはずだから。
end.
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110707