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□わたしの舌の意味
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「よぉ新八くん、近藤さん来てますかィ」


「あれ、さっき土方さんが回収していきましたよ」

「おや、すれ違いですねェ。死ねばいいのに土方」

「どんな脈略ですかあんた」




わたしの舌の意味





向日葵もにょろにょろ背丈を伸ばしつつあるこの頃。自己主張の激しい入道雲が青空の真ん中ふんぞり返っている。
近藤を回収しに来たはずの沖田はいつの間にか客人然として、縁側で麦茶を飲んでいた。

「うっすい麦茶」

「…文句があるならとっとと帰って下さいよ」

「まぁまぁ、ともかくその水羊羹をおろしなせぇ」

全く調子がいい。
はぁとため息をつきながら新八も沖田の隣に腰を下ろして、水羊羹を差し出した。
何故自分は沖田をもてなしているのだろうか。こっちが迷惑を受けているストーカーを引き取りに来ただけ、というかその役割すら果たしていないのに。何か釈然としないものを感じながら、水羊羹を一口分掬った。

「水羊羹なんて、準備いいじゃねぇですかィ」

「近所の奥さんにもらったんですよ。余っちゃうからって」

「へぇ」


沖田が志村家に度々訪ねてくるようになったのはいつからだったろう。
最初は近寄り難かったものの
、今となってはあまり気は使わない仲だ。そんな仲では確かにあるけれど、それを形容することばはいまだ見つからない。
友だち?
いや、友だちならば――――

「うわっ!?」

掬った水羊羹を口に運ぶ途中、誰かに手首を掴まれた。誰か、といっても勿論1人しかいないのだが、驚いてそれすら分からなくなっていた。更にパクリと水羊羹を食べられるのを拒むことなんて出来なくて。ぱくぱくするしか出来ない口は金魚のよう。

「………っななにを」

「いや、そっちのが旨そうっぽく見えてねィ」

そう言うと沖田は自分の水羊羹も一口食べて。

「別にそんなことなかったでさァ」

「……………………当たり前でしょうが!」


―――――友だちならば、こんなどきどきは、きっとしないのだ。
せめて頬だけは金魚みたいになりませんように、と目を少しだけ閉じる。
さわわとゆったりした風に向日葵の蕾が揺れた。



「…沖田さん」

「んー」

「寝ないで下さいよ、仕事中でしょ」

「わぁってまさぁ」

(…ほんとかなぁ…)


水羊羹も食べ終わって少し透明度の高かった麦茶も飲み干して、コップには小さな氷のかけらが残るのみ。沖田は縁側にごろり横になってい
た。まぶたが重そうにうつらうつら。
とりあえず新八は沖田が脱いだ隊服を畳むことにした。


「…ね、沖田さん?」

「なに」

「最近なんでいつも近藤さんが回収されるのと入れ違いに家来るんですか?」

「…………………」


最初は確かに近藤を回収しに来ていたのだ。なのに。
変に勘ぐってしまうのも仕様の無いことじゃないか。

「……………………気のせいでさぁ」

「……そうですか」

「そ」


ちらっと沖田の方を見てみても、その表情は見えない。

(…………………)

ばふっ!
沖田の脳天目掛けて隊服を投げつけた。

「!?な、新ぱ」

「夕飯の支度します!沖田さんは早く仕事に戻って下さい!」


つんっと家の中に逃げれば、沖田はまだ縁側でぽかんと阿呆っぽい顔をしていて、少しだけ吹き出した。



(まだ意味を成せてないのは、お互い様で)

(それでもいつか紡いで、欲しいことばを)


end.
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