リリカルFate
□新たな出会い
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衛宮士郎の日常。
それは同年代の者たちと比べて圧倒的に早く起きるところから始まる。
昨夜にどれだけ遅く眠ろうとも、次の日の三時ないし四時には目を覚まし、身支度を整えた後に鍛錬を開始する。
もはや完全に身に染み込んだ習慣。
それはたとえ世界を越え、体が収縮した今でも変わらずに行われていた。
〜道場〜
「疾ッ!」
高町家だけに限らず、人が活動を開始するには明らかに早すぎる早朝。
そして、普段なら未だガランとした空間なはずの場所。
しかし、恭也や美由希すら起きていないにも関わらず、今日の道場には一つの影があった。
「ハッ!!」
振るわれるのは常時道場に備え付けてある二振りの木刀。
何処にでもあるその竹刀は、まるで柳が揺れるような自然さで流れ、風を斬るようにヒュンとした音を鳴らす。
「奮ッ!」
頭の中から《認識》として具現化したのは未来の自分。
ーーー英霊、エミヤ。
魔術使い、そして戦闘者としての道を突き詰めた己の完成型。
この世界に来て戦った美由希や恭也よりも、《衛宮士郎》が勝たなければならない男。
「ッ!?」
だが、今まで一度としてシャドーの相手として勝てた事はない。
完成型であると同時に理想のカタチ。
数十合の打ち合いの後、両の手に持っていた木刀は衝撃と共に背後へと飛ばされた。
「…思ってた以上に厄介だ。この身体」
未来の伸びしろを考えれば、既に開かれている二十七本の回路、それに今までの経験を活かした鍛錬が若い内につめるというのは大きなプラス。
しかし、現段階で何かが起きたとすれば、対処するのに不安感があるのは否めない。
「…魔術の概念のないこの世界じゃ何も起こらないとは思うけど、実際にビックリ人間を見たからなぁ……」
魔術で肉体を《強化》あるいは《軽化》していないのに、あのスピードを誇るというのは目を見張るものがある。
向こうにいた時、自分に恭也たちほどの速さがあれば……。
「…いや、今更それを考えても仕方ないな……………続き、やるか……」
殺人貴もかつて言っていた。
《If》の話は好きではないと。
飛ばされた木刀を拾い、再び構えをとった士郎は、目の前にいる未来の自分へと迫っていった。