リリカルFate
□夜天の王
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唐突だが、高町家、つまり士郎(大)と桃子の経営している喫茶翠屋は人気がある。
商店街の真ん中に建てられたこの喫茶店は、主に学校帰りの女子学生や近所の奥様方によって支えられている。
自慢の商品は桃子特製のシュークリーム。
かつては海外での武者修行を経て、東京のホテルのチーフパティシエとして奮った腕前の粋の全てを注ぎ込んだ一品。
その味は一流洋菓子店や三ツ星ホテルですら勝つことは難しいだろう。
まぁ桃子印のシュークリームの素晴らしさはこの辺で横へ一旦置こう。
要は翠屋という店はそれなりに忙しいのだ。
特に昼食の時間と下校時間は店の座席が全て埋まってしまう。
それ故に、今朝、食後でこのような会話が行われた。
〜朝食時〜
「シ〜ロくん♪」
「………」
一緒に朝食を作り、料理を食卓に並べ、全員が揃ったところで朝食を開始する。
普段と何も変わらない日常の一コマ。
だというのに、桃子が浮かべるのは何故かいつも以上よりも数段は“素敵な”笑顔。
「…何か御用でしょうか?桃子さん」
「桃子さん、ちょっとお願いしたい事が出来ちゃったのよねぇ〜」
「…頼みたい…こと?」
「えぇ」
珍しい。
恭也、美由希、なのはから頼み事を受けることはそれなりにあった。
それは例えば、鍛錬の相手であったり、料理の作り方であったり、勉強の先生役であったり。
だが、桃子が士郎に改めて頼み事をするのは今回が初めて。
故に、悩むわけでもなく士郎の返答は分かりきっている。
「それなら何でも言って下さい。俺に出来ることなら何でもさせて頂きます」
「あらそぉ?悪いわねぇ、シロくん♪」
「いえ、桃子さんはあまり何も言ってくれないんで、心苦しいと思ってたんですよ」
非の打ち所のない程に素晴らしい士郎の心遣いに、自然と桃子の瞳も細まる。
「…シロくんはいい子ねぇ……最近母さんに冷たくなった恭也にも見習って欲しいわぁ」
「…俺は関係無いだろ……」
「反抗期!?今頃反抗期が来たのね!!?」
「違う」
「恭也!こんなに料理が美味く作れて優しくて美人で…etc……な母さんは他にはいないんだぞ!」
延々と一分近く桃子の褒め言葉を綴る士郎(大)に、流石の恭也もげっそりとしてゆくのを隠せない。
そして、その言葉を聞き入っている年中新婚バカップルたちを横目に、脇道に逸れた話題を意図的に元に戻す。
「…母さん、士郎への要件はいいのか?」
「は!そ、それじゃあシロくん!今日の午後からの予定は空けておいて貰ってもいいかしら?」
「分かりました」