リリカルFate
□夜天の王
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そして、なのはや恭也、美由紀たちが学校へと出払った後、士郎はエプロンを纏って翠屋のキッチンにいた。
「…此処に呼ばれたって事は、そういう事でいいんですよね?」
「もっちろん♪シロくんの料理を食べてから、桃子さん、一度は翠屋のキッチンに入って欲しかったのよねぇ♪」
「…ふむ……」
流石は元一流ホテルのチーフパティシエが経営している店。
調理場の設備も見事に整っている。
おそらく、その辺にあるホテルなどよりもよっぽど活用的な仕様だろう。
「これだけ十分な設備があるなら作るにしても問題なさそうですね」
「や〜ん♪シロくんのお墨付きを貰えるなんて、桃子さん感激だわぁ♪」
自分の言葉にそれほど価値があるとは思えないが、それは聞かない事にしよう。
それよりも気になるのは桃子さんの隣にいる女性。
ここ数日、濃薄の差こそあれ、明らかに何処かで見たような紫色の髪。
「あの…桃子さん。そちらの人は……?」
「え?あ!ごめんなさいね、忍さん。すっかり紹介が遅れちゃって」
「いえ、気にしないで下さい」
「シロくん、こちらは月村忍さん。恭也の恋人なのよ♪」
「私もシロくんの噂は恭也から聞いてたから、会ってみたかったんだよねぇ」
「恭也さんから?」
「えぇ。それとすずかやファリンからもね♪」
その髪の色や“月村”という名字から簡単に予想は予想出来たが、やはりすずかの姉。
しかし、大人しそうなすずかとは対照的に随分と明るい性格だ。
「うんうん。すずかやファリンが言ってた通りの子ね」
「………」
すずかやファリンさんが何を言ったのかは知らないが、なにやら忍さんはこちらを見ながら一人で納得している。
それはもう見惚れるような綺麗な笑顔で。
(月村の家系は美人しか生まれないのか?)
ふと浮かんだ疑問だが、そんな士郎の疑問など周りが気が付くはずもない。
そんな中、桃子さんは鼻歌でも歌い出すかのようなご機嫌さでその身をフロアへと翻す。
「それじゃあ忍さん、シロくん、よろしくお願いね」
「はい」
「りょーかいです」
こうして、後に翠屋二号店を開く“かもしれない”士郎の初仕事が始まった。