小説・イラスト
□だからどうか、その時までは。
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土方さん、アンタにはわからんでしょう、俺の気持ちなんか。
近藤さんを姉上を俺から掻っ攫って行ったアンタには。
別に、分かって貰いたいとは思わないし、気づいてもらいたいとも思わない。
だから、アンタは知らないままで、分からないままでいいんでィ。
そうやって本心を隠して早数年。
姉上はこの世から居なくなってしまった。
俺を、残して。唯一の肉親である俺を。
これで俺と血の繋がりを持つ者はもう此処には居ない。居なくなってしまったんだ。
「――土方さん」
俺は、一緒に墓参り(俺が誘った。きっと、この人姉上のお墓に足を運んだことなんて無かっただろうから)に来ていた隣に立つ男を呼んだ。
それに『なんだ』と此方に顔を向けてくれる土方さん。
別に、話なんかない。
ただ、この人が来てくれたことで姉上が喜んでくれたらいいな、と思っただけ。
でも、いざとなるとそんな言葉など言えるわけもなくて、俺は黙り込んでしまう。
らしくない、と自分でも分かっているし、きっとこの漆黒の髪の男にもそう言われるに決まっているし。
「別に、ただ呼んでみただけでさァ」
「――そうか」
時間だけが流れて行く。
静かに、焦ることなくゆっくりと。
そのせいか、まるで世界に俺と土方さんしかいないと錯覚してしまいそうな気さえして。