薄花桜に囚われたままの愛と哀と藍と

□act.01 春愁のエトランゼ 02
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絶賛推しイベ中のソシャゲを開き、自然回復した分を消費するためにトイレの中で携帯をタップする。
あとは息を吸うように課金したアイテムを適度に消費しつつ、重課金装備で偉そうにしてるやつをボッコボコにタコ殴りにして今とても気分がいい。

今日の夜が仕事先のお偉いさんたちと会食(強制参加)だということを除けば、今日も定時退社で平穏に終わるはずだった。
この間手に入れたドラクロとイカのゲームのレベ上げを配信しようと思っていたが明日以降になりそうだなクソと心の中で悪態をつきつつデスクに戻ろうと廊下を曲がる。

すると自分の視界の先に女の人が歩いている姿があった。

絡まれたら面倒だし、適当に挨拶して抜かすかと歩みを少し早めると、女の人がスカートから携帯を取り出すのと同時にスカートに入っていただろうペンがぽとりと廊下に落ちる。
落ちたことに気付かないまま、女の人は携帯を見ながら廊下を進む。

落ちたペンを拾って声をかけたのは本当にただの気まぐれだった。


「ねぇ、ポケットからペン落ちたよ」
「えっ? あ、ありがとうございます!」
「いえいえ。それじゃあ」


声をかけて振り向いた顔は自分の知っている人物で、話したことは多くはないが、男性社員がこぞって噂している派遣の子。
そこらへんの女子よりも可愛い容姿と、大人しい性格が見事男性に受けていた。

「おはようございます」
「これ今回の会議の資料になります」
「お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
「お疲れさまでした」
と、何ともありきたりなセリフではあるが、彼女が俺に話しかけてきてくれるTOP5の言葉である。
まあ要するに彼女と雑談をしたことがなく、会話はただの仕事上のやり取りだけ。

彼女が派遣されて来て3ヶ月程度、同じフロアの同僚で顔見知りというくらいの間柄。
彼女は周囲への目配り、気配り、心配りの配慮ができ、甲斐甲斐しく動きまわる姿はまるでメイドのようであった。

そして遠慮しながらも話しかけてきてくれる彼女の声は決して大きい声ではないが、か細くもなく、鈴を転がした声という表現が当てはまるだろうか。
澄んだ綺麗な声は、俺の好きなゲームの推しキャラに少し似ていて、愛らしい容姿と相まって俺の日常生活の世話も全てしてほしいと願うくらい、彼女はメイドにとても向いていると思う。

メイドは彼女の天職だと勝手に決めつけ、頭の中で妄想を巡らせながら、デスクのPCでまた仕事を再開させた。

メイドで思い出した。確かメイドが出てくる、そんなエロゲが最近発売された気がする。
全編フルボイスで抜きゲーかと思ったらシナリオゲーとかだったか。
評判は良かった気もするが、時間がない社会人にシナリオゲーは正直めんどくさい。
社会人になってからギャルゲーは、よほど好きなやつじゃないとプレイしなくなったが、エロゲはズリネタとして度々プレイはする。

昔と違って最近はボイス付きが増えたし、なんなら全編フルボイスも増えた。
学生の頃は絵やストーリーの好みで選んでいたが、1ヶ月に4、50本も出るエロゲを選別してる暇はなく、今は専ら好みの声である小泉桃花が出てたらとりあえず買っとくか精神でエロゲは購入していた。
最近オンラインやブラウザゲームにも小泉桃花出まくりなおかげでソフトの方は結構積んでるけど。

裏名義である小泉桃花と声優の仁科さつきが同一人物という話はギャルゲー、エロゲ界隈では有名な話だ。

小泉桃花の声は最高に抜けるんだよなー。
小泉桃花の声帯を持った可愛い子にお世話されたいとか頭の中は男子高校生みたいなことを考えながら、外面はそんなもの微塵も感じさせない鉄壁な笑顔を作り、良い人を演じ周りはそれに騙されてくれているというのが一連のお約束ネタである。


「クソオタなのにムダに処世術が長けてて引くわー」と笑いながら言っていた姉の言葉を思い出した。
全くもって大きなお世話である。

三次元で面倒ごとにだけは巻き込まれたくない。面倒ごとは二次元の中だけで十分でしょ。

会食までにHP、MP消費をして会食中走れない分を多めに稼いでおくかと、いつもと変わらないことを考えながら、テンポよくキーボードを叩き、次々と仕事を片していった。


三次元は何故にこうも生きづらいのか。


2017.08.26.

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