薄花桜に囚われたままの愛と哀と藍と

□act.01 春愁のエトランゼ 07
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立花さんは確かに可愛いと思うし、気が利くし、良い人だと思う。
同僚と関わるのが嫌な俺が積極的に関わるのは、俺のゲームの女神だからという理由が一番で、彼女にしたいか?と問われれば素直に首を縦に振れないのが事実であった。

周りの女性の同僚と比べれば話しやすいし、余計な詮索もしてこないから居心地も良い。
今までは告白されれば適当に付き合ってきたが、結局は付き合いが悪いだの、干物オタクだと思わなかっただの散々言われ長続きはしなかった。
もしかしたら立花さんに告白されていれば付き合ったかもしれない。
彼女が俺に好意があるのは少なからず見て取れていた。最低だなと思いながら俺はそれを利用していたのも事実。
けれど付き合ったとしても長続きはしなかっただろう。
取り繕った自分を好きになられたら、ずっとそれを続けなきゃいけない。
オタクだと知られて彼女と別れてきた、友人と仲違いした経験から得た処世術。
でもそれを続けていたら、いつかは破綻すると頭でわかっていたから、今度は人を避けるようにネットに逃げて自分を保ってきていた。


そんな時に立花さんが声優の仁科さつきだと思わぬ形で知って、嬉しさと戸惑いと少しばかりの希望を見出していた。
ラブホに入ったのは、そこにあったから入っただけで、別に彼女に手を出そうなんて気持ちはなかった。
確かに恋人同士になりたかったわけではない。
でもお互い気の許せる友人くらいにはなれればくらいの淡い気持ちで、素の自分を出して自分がオタクだと伝えた。
ネットではない場所で取り繕わない自分であれこれ話そうとすれば、少なからずコミュ障を発揮するわけで、言葉が圧倒的に足りなかったなと今思えば反省する点であった。
彼女が気が動転してるあの時、なんとか落ち着かせようと肩に触れた瞬間、パシンと彼女が俺の手を振り払った。
ほんの一瞬の出来事だった。
だが、その一瞬の出来事が引き金となり、トラウマが走馬灯のように脳裏を駆け巡り、自分の中で理性が崩壊していく音がした。
気付けば自分の口からは最低な言葉を発していて、止めようとしても勝手に口が言葉を紡いでいた。


「……………ならさ、交換条件っていうのはどう?
俺が言わない代わりに、そしてそれがバレないよう協力する代わりに、立花さんは俺のお世話をする」

「お世話……」

「俺、重度の干物オタクなんだよね。
部屋掃除したり洗濯してくれたりしてほしいところだけど、それはこの際別にいいや。
男だからさ、溜まるわけよ。でも処理しないと後々面倒だから自分でするけど、やりたいゲーム多くて、もはや処理が面倒なわけ。
だからさ……立花さんがしてくれない?」

「……エッチなことを…するってことですか…?」

「まあ要約するならそうかな?
インタビューの話が嘘じゃなければ、立花さん男性経験少ないんじゃない?
視覚からの情報だけじゃ限界なのは自分が一番よく知ってるでしょ。
本や映像の知識では補えないことがたくさん知れて演技にも活かせるし、そして更に君の性欲処理も合わせてできる」


絶望したような彼女の表情。

泣きながら懇願しつつも自分が触れた彼女の体は次第に熱くなり、感じてくれているのが分かると、理性が失われた自分にとって、もはやそれは興奮材料の1つでしかなかった。


取り繕った俺しか見てくれないなら、ありのままの自分が恐怖の対象なら、もう前の関係に戻れないのなら、もういっそすべて壊してしまえばいいと思った。



愛し方も愛され方も知らないまま、ただ繋ぎ止めたい、その一心で……知性も理性のすべてに蓋をした。


2017.9.3.

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