薄花桜に囚われたままの愛と哀と藍と

□act.02 愛の酷薄 18
1ページ/2ページ



「気色悪い」「触るな」



罵声と共にクスクスと笑う声が聞こえる。
教室を出ても廊下ですれ違う生徒からは奇異な目で見られ、学校のどこにも居場所がないんだと心がチクリと痛んだ。
生徒たちから逃げるように学校から抜け出して校門を出たはずはのに、気付けばまた教室へと戻されていた。
彼らから逃げても逃げても、また教室へと戻される。

クスクスと笑う声は次第にケタケタと奇妙な笑い声へと変わり、彼らの顔がぐにゃりと歪んだ−−−。



「……て…きて……さつき起きて!」
「…っ!!……お、ねぇちゃん…」
「よかった。すごいうなされてたから心配で」
「……夢…だったんだ…よかった…」


これが夢だと気付いた頃には、もう現実に引き戻されていた。
だいぶ現実離れした夢だったけれど、学校や生徒たちには見覚えがあった。
忘れようとしても記憶に蓋をしても、たまにこうして夢でうなされる。


「すごい汗だね。喉も渇いたでしょ?
今タオルとお水持ってくるから、ちょっと待ってて」


姉の温かい手に頭を優しく撫でられ、姉はパタパタと部屋を出て行く。
私は未だに震えた手をギュッと握りしめ、深呼吸を繰り返した。
深呼吸を何度か繰り返して少し落ち着いた私の耳には、バケツをひっくり返したような音が聞こえた。地面や屋根を叩きつける雨音が部屋に大きく反響する。

悪夢を見たのは、このけたたましく響く雨の音が原因なのか何なのか。
姉を待つこの一分一秒がものすごく長く感じる。
その間、考えないようにしていても勝手に思い出される過去に、視覚も聴覚すべてを遮ろうと、それが無意味だと知りながらも私は両耳を押さえて膝を抱えた。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ