A3 短編

□燃える心臓
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【先生と万里】



俺の初恋も初デートも初めてのキスも全て1人の人間に捧げてきた。
だが、俺の一途な想いを知りながら、あの人は一線を越えてはくれなかった。
好きだと言えば困った顔をして、俺のこと嫌いなのかと聞くと好きだと言い、付き合おうと言ってもまだダメと言われ、爆発した中学3年の俺はその人を押し倒してめちゃくちゃに抱こうとした。

するとその人は「これ以上やったら嫌いになるから!絶交するから!万里くんと結婚しないから!」と泣きじゃくり、俺が結婚できる歳になったらいいという条件を突きつけてきた。
そして俺はクソ真面目にも、その条件を守って今年18歳になろうとしていた。

俺だって性欲はあるわけで、その辺の女で適当に童貞捨てるがてら遊ぼうとして事に進もうとしたら全然興奮しないわ勃たないわで諦め、喧嘩することで発散する毎日だった。
今は、劇団に入って忙しなくしてるおかげで、だいぶ気は紛れてはいる。
まあ、初恋の相手やら童貞やらの話を至さんにする羽目になり、話をしたらしたで「万里のくせにピュアすぎてくそわろた」と指をさされて大爆笑されたのは記憶に新しい。


「摂津くん、もう授業始まるよ」
「何で苗字呼びなんだよ」
「学校では呼ばないって言ったでしょ」
「ああ?また変な条件増やしたな」
「痛い痛い頬っぺた取れちゃう」


両方の頬っぺたを摘んで横に引っ張ると涙目になりながら抵抗する姿が不覚にもかわいすぎて今すぐにでもそこにあるベッドに押し倒したい衝動にかられる。


「てか、何で急に白衣なんか着てんだよ」
「生徒に間違われるからだよ。それに白衣着た方が保険医っぽいかなって。
どう?保健の先生感増した?」
「コスプレみてえ」
「ひどい!」


容姿は大人っぽいくせに中身は子供っぽい。紬さんと同い年とは思えない俺の幼馴染のなまえに片思いして早数十年。
一応好きだとは言われたことがあるから両思いか。
歳の差を気にしてか何度も何度も俺の告白を断り続けたなまえが、人生イージーモードの俺にとって初めて上手くいかない相手だった。


「万里くん、どうしてまた怪我してるの?」
「ハア?ふざけんな!お前のせいだよ!」
「何で私なの!?」


知ってて言ってたら相当タチが悪いが、この人がそんなことできるような器用な人でないことはとうの昔から知っている。


「また兵頭くんと喧嘩したの?」
「次にその名前出したらキスすんぞ」
「だ、ダメだからね!生徒に手出したなんて知られたら、私の首どころか万里くんの進学も怪しくなっちゃうからダメ!」


目をつぶって首を横に思いっきり振りながら、俺の体を離そうと押せば、見事に怪我したところをグイッと押されて軽く痛みが走った。
「痛ぇ…」と漏らせば慌てて椅子に座らされ、「ごめん、本当にごめんね」と何度も謝りながら、これでもかと過剰な手当てを受ける。


「……何で、この学校来たんだよ。ほかの学校なら付き合っててもバレないだろ」

使った消毒液や包帯などを仕舞うなまえの後ろ姿にふと問いかける。

「…………だって、私のいないところで怪我してほしくないもの」

「……んだよそれ。ああもういい、俺は寝る」


聞いたのは俺だが、答えが不意打ちすぎだろ。
俺は照れてることがバレないよう、保健室のベッドになまえを背に横になる。


9月9日に絶対俺のものにしてやる。
俺の誕生日に絶対泣かすから首洗って待っとけ。



俺の誕生日まであともう少し−−−




2017.11.23.

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