死なせてくれぬ病、恋と云ふ

□死にたがりの聖女
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私は兄の代用品なんだと、そう気づいたのは小学生のときだった。

両親や祖父母に愛され、双子の兄に可愛がられ、私の世界は色とりどりで、生活は順風満帆、世間から見ても幸せな家族そのものだった。

だがそれは私が生を受けて数年、世界は徐々に歪み始める。

兄の英智は元々体が強い方ではなかった。
入退院を繰り返していた兄は2000人に3人程度しかいないRhマイナスO型で普通の輸血では難しく、同じRhマイナスの私が兄のためにと病院に通っていた。
英智に元気になってもらいたかったし、助けたかった。ただその一心で嫌いな注射も幼い私には耐えられた。

その日も母親と一緒に英智のお見舞いをし、輸血用にと採血するため病院に来ていた。
ベッドに寝転びながら、採血が終わるのをじっと待つ。
「小さいのに偉いわね」なんて看護師さんに褒められ、嬉しくなった私は採血が終わると早く母親に会いたいがために部屋を飛び出した。
「名前は偉いわね」といつものように頭を撫でてほしくて。
母親を見つけ声をかけようとした瞬間、そこで私の足はぴたりと止まった…。

「英智は生きられるんですか?
もし臓器が必要であれば妹の臓器を使って下さい!
英智だけは生きてもらわないと困るんです!
私たちの大事な息子で天祥院家の後継者なんです!」

「お母さん、落ち着いて下さい!
まだ臓器移植しなくてはいけないと決まったわけではありません!」


世界が崩れ落ちた気がした。


看護師も両親も英智だって、入院して安静にしていれば退院できるから大丈夫だよと笑っていた。
ここ最近の英智の病状は著しくないことは、幼い私でもどこかで理解していた。

でも母親は言った「英智だけは」と。
妹の臓器でもなんでも使って、英智だけは助けれくれと。
その時、私は両親にかわいがってもらっていたのは、英智のためなんだとそう思った。

母親はあの時 気が動転していて、とっさに出ただけの言葉かもしれない。
本当はそうは思ってないのかもしれない。母親からしたら私も大切な娘なんだと、そう思っているんだと信じていたかった。
でも幼い私には、「名前は英智を助ける道具」なんだと突きつけられた気がして、頭から母親の言葉がこびりついて消えることはなかった。

その日からだ。私の悪夢の始まりは。

両親に優しくされても素直に受け取れない。周りの大人にちやほやされても喜べない。
毎日のように夢でうなされては起きて、この現実に絶望する。

毎日のように「死にたい」と切望しては、英智に血を分け与えるために生きねばと思う。
だから私は英智のために今だけは生きるしかないのだ。

英智に必要とされなくなったとき、私はやっとこの世界から切り離される。

「死ねる」のだから。



そして私は今日も、英智の代わりとして生徒の前に立つ。生徒会長代理として。

英智の身代わりとして−−−−



死にたがりの

20160214
再編集 2018.04.09.
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