死なせてくれぬ病、恋と云ふ
□愛になるにはまだ幼い
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※3年生春 フラワーフェス付近のお話
ほぼ蓮巳の独白
画面の向こうでキラキラと輝くアイドルが好きだった。
自分もそんなキラキラとした人になりたかった。
フリルのたくさんついた衣装を身にまとって、歌って踊って、笑顔を届けるアイドルになれたらと夢見ていた。
でもそれは、全て過去の夢。とても、とても昔に抱いた小さい少女の夢は泡となって消えていった…。
***
「いいか、英智のように1人でフラフラと出歩くなよ。しっかり生徒会室で執務をまっとうしろ」
私と敬人しかいない生徒会室で、敬人の声が響き渡っていた。
ちょっと遅れて生徒会室に来てみれば、鬼の形相で仁王立ちした敬人が私を待っていた。
そこから「あれを終わらせておいてくれ」、「これを進めておいてくれ」だの、大量の仕事を私に預け、そして いつものように眉間に皺を寄せながら、話はどんどん説教じみていく。
『わかった、わかった。仕事はちゃんとやっておくから。
英智じゃないんだから、そんな…』
「お前らは同じだ。似たような悪癖があることをお前ら双子はいい加減自覚してほしいところだな」
『そんな遮ってまで言わなくたって…』
英智がいない今、学院のトップは敬人だ。
学院のことや生徒会業務、紅月の活動、英智不在のfineの取りまとめなど、仕事と課題が山積みで、アイドル科関連の仕事のみに集中したとて、正直首が回らない状態なんだろう。
会長代理と言いながら私は全校生徒を前に話をしたり、目上の方への挨拶をしたりと表向きの仕事と雑務くらいで、実際の運営、企画など裏での仕事は全て敬人の仕事だ。私の会長代理など、ただの肩書にすぎない。
普通科の子も手伝ってはくれるけれど、それでも人手が足りていないのが現状だった。
目に見えて敬人が疲れが溜まっているのがわかる。そして相当イライラしているのも手に取るようにわかる。
休んだら?なんて言ったら、怒鳴られて終わるだけだから何も言わないけれど。
『ほら早く行かないと紅月のみんな困るわよ?なんちゃらフェスの練習するんでしょう?』
「フラワーフェスだ」
呆れ顔をされたけど、今までアイドル科とはほとんど無縁だったのだ。
できることなら、これからだって関わっていきたくはない。英智がいい顔をしないし、今度下手なことをしたら監禁でもされそうだ...。
けれど新設予定のプロデュース科のテストケースとして、普通科に行くはずの子がアイドル科の2-Aへと転校してきた。
その子の面倒を見てやってほしいと学院側から頼まれ、今こうしてアイドル科の人たちと少しずつだが接点が増えてきた。
だが、そこは転校生と同じ、私も素人。生活面のサポートくらいしかしてあげれない。
「……転校生が生徒会室に来たら、俺の元にくるよう伝えてくれ」
『ええ、伝えておくわ』
最後までしかめっ面のまま、敬人は私に背を向けた。
その時ドアノブに手をかけた敬人がぴたりと止まり、私が不思議に思っていると敬人が振り返った。
「俺が戻って来るまで待っていろ」
私の返事を待たず、敬人は生徒会室を後にした。
『相変わらず言葉足らずなんだから…』
英智と敬人は私がアイドル科の人間と関わるのを嫌う。夢ノ咲の特にアイドル科が荒れていた時代、よく素行の悪い連中に絡まれていたのが大きい要因だろう。
そこから英智も敬人も昔以上に過保護になっていった。
私が零と関係持ってるって知ったら、敬人どんな顔するんだろう。
敬人を通じて知り合った友人同士ってくらいの認識なんだろうか。
軽蔑…されちゃうのかな。
一緒に帰ってくれなくなったら、嫌だな…。
きっと英智は激怒しそう…それこそさっき言った通り監禁でもされそうだ…。
『ほんと、自分勝手すぎだね……私』
生徒会に入るときに英智からもらった真っ白の万年筆をぎゅっと握りしめる。
卓上の紙に目を落とし、文字の羅列にげんなりしながら、そんなことを頭の片隅においやった。
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