死なせてくれぬ病、恋と云ふ

□愛になるにはまだ幼い
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蓮巳Side


英智が皇帝として夢ノ咲のトップ立つ前、アイドル科は目も当てられないくらい荒れていた。
名前は普通科にいながら、容姿ともによくも悪くも目立つ存在だった。

あの頃は特に風紀が乱れていた。
アイドル科の一部の素行の悪い連中が、そんな名前に目を付け執拗に絡む出来事が度々あった。
それでも本人の持ち前の話術や護身術などで適当に振り払っていたようだが、所詮男と女。力の差で簡単にねじ伏せられる。
朔間さんから聞いた話だが、アイドル科の連中に強姦されそうになったところを朔間さんがたまたま見つけ助けてくれたということがあった。

本人は笑いながら誤魔化していたが、白い腕から覗く縛られ押さえ付けられた痕や、白い肌に浮かぶ鬱血痕がその現状を物語っていた。

そのことに俺の手がつけれないほど英智はひどく怒った。
俺と英智だけでは名前を守るのに限界がある。

その強姦事件がきっかけとなり、そしてアイドル科の月永レオと親密な関係にあることが英智に知られ、2年の秋に名前を生徒会に無理矢理入れる形となった。

名前を守るため、そしてこの腐りきった学院を変えるため、あの頃の英智は手段を選ばなかった。
ただひたすらがむしゃらだった。俺も英智も必死だった。学院のため、そして全ては未来のためと。

名前はアイドル科以外の生徒会の仕事をメインに任され、主に英智がアイドル科に関わらせないよう徹底してきたため、アイドル科の特定の人物しか知らない。また関わった相手がアイドル活動してることもわかっていないことが多い。

そんな名前がプロデュース科に転校してきた転校生の面倒をみることになり、3年からアイドル科にプロデューサーという立場で編入することになった。
アイドル科の校舎に編入するということは、必然的にアイドル科の面々と関わりを持つことになる。そのことに関して英智は最初猛烈に反対していた。もちろん俺もあまり好意的には思っていない。

今はもう荒れていた頃の昔とは違う。もしかして名前にとって良い刺激になって良い方向へ傾くかもしれない。
転校生や名前が良い起爆剤となり、夢ノ咲学院アイドル科発展の端緒を開いてくれるかもしれない。
無理矢理こじつけた理由ではあったが、英智を説得し名前の編入が正式に決まった。

英智がここまで渋る理由が、もう1つある...。英智はそれを懸念していた。


「蓮巳殿!こちらであったか!」

「神崎か、遅くなってすまない」


廊下で紅月のメンバーである神崎と会い、二人で鬼龍が待っているレッスン室へと急ぐ。



英智は名前限定だが、俺も相当な心配性だな。
誰よりも名前はアイドルへの憧れが強かった。そう、母親との間に確執が生まれる前までの話だ…。



***



幼稚園の頃、アイドルの真似事をしていた名前を英智と2人でよく見ていた。いや、見せられていたと言った方が正しいか。
天祥院家の人間とは思えないほどお転婆で、歌って踊るのが好きな、笑顔が絶えないハツラツとした少女だった。

天祥院家は家族円満だったと記憶している。俺は詳しくは分からないが、小学生のときに名前と母親との間に確執が生まれ、次第に名前から笑顔が消え、天祥院家の人間に相応しい淑女へと変わっていった。
英智たちの両親はそれはそれは大層喜んでいた。が、それは俺たちにとっては悲しい出来事だった。

英智は名前が昔の様に笑って欲しいと色々なことを試したり、俺もそれに付き合ったりしては失敗に終わる日々が続いた。
そしていつしか、英智は名前が憧れたアイドルになるとそう言い出した。

「名前の憧れの存在に、憧れたアイドルになりたい」
そうはっきりと俺に告げたことは今でも鮮明に覚えている。
「名前を縛る鎖を解いてあげたい。今の僕にはもうこれしか思いつかないんだ」と。
アイドルになる夢を持ち、英智は夢ノ咲のアイドル科に進むことを決めた。

その一方名前は、英智が夢ノ咲のアイドル科に進学することに少し抵抗はあったようだが、英智の近くにいたいと夢ノ咲の普通科へと進学を決めた。
その時 俺は名前に好きなことを学びたいなら他の科に、または別の学校を選ぶべきではないのかと問うた。
そしたら名前は一切迷うことなく、俺の目を見てはっきりと断言した。

『英智は天祥院家の大事な後継ぎで、私の唯一の大切な家族だから、私が守らなきゃいけない。
私は医者にはなれないけれど、医者にも親にもできないことが私にはある。私だけが英智の代わりになれる。血も肉も全て英智にあげれるのは私だけだから』と。


英智も名前もそれぞれの境遇や想いは違えど天祥院家という重責を背負いながら幼少期を過ごしたためか、性格が少し、いやだいぶ捻くれている。
この2人には時々、狂気すら感じる時があるほどだ。
ただそれでも英智は名前ために、名前は英智のためにと今を生きている。

お互いそれは口に出さないし、お互い気付けない。気付かせようともしない。
仲はいいくせに、重要なところで言葉を交わさない困った幼なじみたちだ。

俺はそんな2人を少しでも支えてやれればと夢ノ咲へ進学し、英智と名前の側で見守ろうと誓った…。



「蓮巳殿?どうも顔色が優れんぞ、大丈夫であるか?」

「すまない。少し考え事をしていた。体調は問題ない。心配無用、健康そのものだ。
さて、鬼龍のところへ急ぐか」




お前が一言「助けて」と言うのなら、俺は迷うことなくその手を取ろう。

ただ見守ることしかできない そんな俺は昔も今も臆病なままだな。


になるにはまだ幼い


20160615
→あとがき、補足など
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