屋根裏
□せめて間接キスくらい
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ルフィに恋愛感情を抱いている。エースがそれに気づいたのは本当に些細なきっかけだった。
真夜中、寒さに目が覚めた。隣で寝ているルフィに布団をかけ直してやった。
そのとき目がとまったのは唇だった。ふっくらしていて柔らかそうだ、漠然と思った。
触りたい、思うより先に身体が動いていた。指先でそっとルフィの唇に触れた。
「ん……」
寝返りをうつルフィに、咄嗟に手を引っ込めた。心臓が大きな音を立てた。
無防備な弟の唇を見ていて、自分の唇で塞ぎたくなった。もしくはその先までを想像した。そのとき自覚した。
自分はルフィを愛しているのだと。弟としてだけではなく、特別な意味で。
でも自覚したところで何も変わらない。変えてはいけない。
これからもルフィとはずっと“兄弟”という関係でいるしかない。
エースは普通の“兄貴”でいる為にどうしたらいいのか考えた。
「女?」
「ああ。今日そいつんち泊まるから」
明くる日エースが突然言い出した。ルフィは不思議そうな顔をした。
「何で?」
「何でって……」
心の中が読まれないようにエースは一度も目を合わせなかった。
「女と泊まるっつったら、わかるだろ?」
「誰だ? おれの知ってる奴か?」
「誰だっていい」
吐き捨てると、エースは玄関に向かった。
「エース!」
ルフィが追いかけてきてくれて嬉しかった。口が裂けても言えない台詞が次々と浮かぶ。本当はお前が欲しいとか、おれはお前を愛してるとか。兄としてふさわしくない台詞ばかりだ。喉まで出かかって飲み込んだ。
「じゃあな。戸締まりちゃんとしろよ」
「本当に行っちまうのか?」
「何で泣きそうな顔すんだよ」
「だって……」
ルフィが何を言うのか待った。心のどこかで期待した。もしかしたら同じ気持ちでいてくれているのか?なんて。
でもルフィはそれ以上何も言わなかった。エースはため息をついた。
「そうだよな」
「え?」
「いや、何でもねぇ」
背を向けると、エースは指先を唇に押し当てた。昨夜ルフィの唇をなぞった指先だった。大きく息を吸い込むと、振り返らずにドアノブを捻った。