修羅姫様

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「…まずは一匹……!」
虚を貫く矢は紛いもなく滅却師の証。
冷たくそれをつまらなさそうに見つめている。

ちょうどいいところに出くわしたと千姫は思った。
しかし、一護の驚き様は千姫をわくわくさせる他ないほどのいい驚き方で笑みが自然と溢れる。
「白玄神、やっぱり一護って面白い人間だよ。石田の方は微妙ってとこ」
千姫の滅却師に対する考え方という物は並の死神よりも冷めている。
人間が嫌いである千姫がそもそも力を少しつけて虚を殺せるようになった滅却師を好きになるはずがない。
そして何よりもその傲った人間が死神が守るべき世界の秩序を荒らすことさえも嫌った。
虚が完全になくなってしまえば世界の秩序は狂う。
それを理解できずに足掻く人間がどうしても許せなかった。

石田雨竜もそうだ。
均衡を破るから滅却師は滅ぼされる様な運命になった。
虚が殺す魂はそうなる運命だったのだと傍観者である千姫は思う。
それを死神のせいだと嘆き自らが立ち上がるしかないなどと変に正義を掲げ、殺された仲間が浮かばれないだなんだと昇華されることを嫌うなど許すはずもなかった。
元来滅却師は見つければ即刻殺すと決めているが石田雨竜の場合は脅威となるほどの力はないと分かっている上にまだ一護の力を上げる上で必要価値があると踏んだ。

「殺さないよ白玄神」
白玄神もそうである。
斬魄刀は元来昇華するためにある。
それを主人の仕事を奪われ、自分の存在である昇華を奪われてはたまったものではないのだ。
殺すと決めている白玄神は珍しい判断に一護が関わっていると気づいた。
護るべき者は何があろうとも護る。
その主の信条に惚れきっているのは自分だった。

一護は塀に雨竜の胸ぐらを掴み、押し付けている。
「…なんて顔をしてるんだ?」
「…!」
「黒崎一護」
「…元に戻せ、虚を追い返すんだよ!」

その自分勝手な雨竜の行為に軽蔑の眼差しを向ける一護に千姫は満足を感じていた。
人間が人間を守るために死神となり全ての人の危険を拒絶するその姿に歓喜を感じてさえいた。
「…無茶を言うな君は。見ていただろう?今僕が何をしたか。賽は投げられたというやつさ。じきに撒き餌につられた虚でこの町は埋め尽くされる。僕に掴みかかるより先に走った方がいいと思うよ。君が少しでも多くの人を虚から守りたいと願うならね」
「てめえ…」
「そして気をつけた方がいい。知っているだろうが虚は霊力の高い人間を好んで襲う習性がある」
「!くそ…っ!」
「あっ!おいまてよ一護!!」
一護の体に入った改造魂魄であるコンが一護の後を負っていく。

「…やっぱり…気付いてないか……よく探せ黒崎一護。君の近くにいる人間、霊力の高いのは家族だけじゃない筈だ。それに気付かない限り君は必ず僕に敗れ、自らに対する失望に殺される。そして君は自分の能力の低さを思い知るんだ。このルビコンの対岸で」
その雨竜の独り言に千姫は笑った。
それが傲った人間である証であり滅却師の憎いところだった。
「こんにちは、滅却師くん」
白玄神が面を被って誰だか分からない千姫を乗せて雨竜の目の前に降り立った。
「見ない死神だな、業務を果たさなくていいのかい?」
「これだから愚かで醜く傲った人間が嫌い…!」
恐ろしい殺気がそこに充満し、雨竜は呼吸をすることを忘れた。
そして面を外した千姫は雨竜に姿を明かす。

「まだ殺してあげない。一護の能力を上げるために貴方が必要だから」
「転校生である君の霊絡が死神でも滅却師でもないことは分かっていた。得体の知れない薄気味悪さだけ感じていたよ。死神だったことには驚いたけれど」
冷や汗を流しながら笑った雨竜にやせ我慢をしていると笑った千姫。

「一応分類は死神だよ。白玄神刀に戻って」
刀身へと姿を変えた白玄神を握って回りに近寄っていた虚を五体斬った。
「肝に銘じておいてね。貴方がやっていることは罪なき霊力の高い人間を危険に陥れてる人殺しってこと」

冷たく言い放ち千姫も虚討伐の為に空中へと移動した。
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