修羅姫様

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「師匠は滅却師の最後の生き残りの一人として死神達から厳しい監視を受けていた。だけど師匠はその死神達に対して滅却師の必要性を訴え続けた。力を合わせて戦う術を模索していた。平時尸魂界にいる死神達はどうしても現世での虚へのあ対処が遅れる。常時現世で虚に目を光らせ俊敏に対処する我々のような存在が必要なのだ・と」

雨竜は黙々と虚に矢を放ちながらも言った。
その目には悔しさと死神への憎しみが籠っている。
「だけどそれに対する死神達の返答はいつも同じ。"我々の仕事に手を出すな"そして師匠は死んだ。」

その言葉に我慢ができずに千姫は目の前の虚を一掃した。
そうなっても仕方がない、死神は何度も滅却師に呼び掛けたのだから。
世界のバランスが崩れると千姫自身がそのことを実感していた。
現世側の魂が多くなれば何故かそれが自分の体にも影響する。
傍観者だの何だのと言うのは強ち間違ってはいない。

「その日の敵は巨大な虚が五体。死神の援護なくして戦える相手ではないことは明白だった。そしてやはり死神の対処は遅かった。彼らが虚を倒しに現れたのは師匠が戦いはじめてから二時間後。師匠が死んでから一時間が経っていた」

雨竜の指は擦りきれ血が滴れ落ちて地面に花を咲かす。
矢を放つのは精一杯なはずだがそれでも尚、虚に放つのを止めない。
「結局最後まで師匠の考えは死神達に届くことはなかった。もし死神達が師匠の考えを認めていたなら滅却師の力を認めていたならもっと早くに助けに来ていただろう。師匠は死なずに済んだだろう。わかるかい、黒崎一護。僕は死神の目の前で絶対に滅却師の力を証明しなければならないんだ!この戦い君の助けなど欲しくはない。僕と君は滅却師と死神。考えが正反対であることはわかっている。僕の考えが間違っていると思うならどうぞそこで見物しているといい。僕は僕の力をただ証明するだけだ。」

師匠を思うが故の愚かな行為。
千姫はただ彼が傲っていただけの人間ではなく、師匠を認めてもらいたかった唯の十五才だったのだから。
師という者は千姫にとってもどれ程大切かわかっているつもりだ。
自分自身も霊力や身体能力が高けれど赤子として産み落ちた時より誰よりも最強であったわけではない。

師匠という者はいた。
己の父であったから。
その大切さは分かっている。

「………………は…」
「?」
一護の目付きは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりだった。
その雨竜の気持ちは分かっているが一般人を巻き込んでいいとは限らない。
一護はそのまま雨竜に駆け寄って行き雨竜の頭に跳び蹴りをかました。
「話が長げぇッ!!!」
思い切り蹴られた雨竜はそのまま虚に頭を打ち付けた。
雨竜はその奇想天外な一護の行動に驚いた。
「な…ななな何をする!!」
雨竜は体勢を立て直して一護のその突然の行動に驚いたままだった。
再び鈍い音がして本気で雨竜を蹴った一護に千姫は可笑しくてたまらなかった。
「うるせえ!!納得いかねンだよ!ハナシ長すぎて最初の方とか忘れちまったけどよ!要するにオメーのセンセイの一番の望みってのは…死神に滅却師の力を認めさせることじゃなくて!死神と力を合わせて戦うことだったんじゃねえのかよ!?だったら今ソレやんねーでいつやるんだよ!!死神と滅却師は正反対!結構じゃねぇか!!大人数のケンカなんつのは…背中合わせの方が上手くやれるモンだぜ!!」

一護のその言葉に千姫は目を見開いた。
だから人間から死神になった者がこんなにも面白いのかと。
そんな死神など尸魂界などには到底いない上に二百年前の戦争を経験しているものは尚更そうだ。
仲間を殺されたのは死神もだ。
己もそうだ、千姫もあの戦争に参加していた。

「白玄神、あの子すごいよ。綺麗だね、本当に」
その純粋さは輝くように見え、そのオレンジ色の頭をいとおしげに千姫は目を細めた。
白玄神でさえ面白そうに鳴いて虚に自らが斬りかかっていくのだから面白い。

「"背中合わせ"…?何だそれは?共同戦線を張るということか?滅却師と死神が!?」
彼らは既に虚に取り囲まれてしまっており、抜け出せるのはその方法しかなかった。
雨竜も限界が近いのだ。
「それ以外の意味に取れんのかよ!?」
「ムチャを言うな。滅却師と死神が力を合わせるなんて…」
「まだそんなこと言ってんのかよ!?」
「…な…!?」

そう言った雨竜の肩を掴み、雨竜が虚に襲われそうになっているのを庇って虚に一太刀入れた。
そしてそのまま態勢を崩した一護に襲い掛かる虚に今度は雨竜が矢を放った。
「そうだよ!」
その己を守った雨竜の行動に一護は笑みを見せて言った。
「勘違いするな!今のは撃たなければ僕がやられていたからだ!君に協力したわけじゃ…」
素直になれずにもごもごと言い訳をする雨竜の初々しさに見守っている千姫は興奮を覚えた。
嫌いな人間はすぐにこの危険な窮地から逃げてしまう。
だが彼らは立ち向かっていくのだ。
面白いこと他ならない。
そしてその窮地に立ち向かう行為は彼等自身の能力の成長に繋がっている。
「それでいいんだよ!」
「…何…!?」
「やらなきゃやられる。でも一人じゃキツい。だから仕方ねぇ!力を合わせる!そんなモンでいいんじゃねえのか。力を合わせる理由なんてのはよ!」

そのハチャメチャな考えに雨竜はどこか無意識のうちに惹かれていた。
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