るろうに剣心

□黒笠
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「左之助まで来てたのか」
「なんでぃ、いちゃわりぃか」
「いや、悪くはないよ」
谷邸に着けば大きな門の前で先に着いたご様子の剣心と左之助と警官がいた。
「緋村さん…こちらの方が桂さんですか」
優しそうなその瞳には正義の色が見えた。
こういう警官は珍しい。
「そうでござる。龍、こちらが署長殿だ」
「どうも、桂龍だ。よろしく」
「今日は来てくださって本当に心強いです。よろしくお願いします」
署長は私に深々と頭を下げた。
それに対して何と返せばよいのか分からず苦笑いをしておく。
「では私が先に行きますから着いてきてください」
署長はそう言って谷邸へと足を踏み入れた。
恐らく、黒笠の狙いは此処に私がいると分かればきっと谷のことを忘れて襲い掛かるはずだ。
あるいは幕末最強の剣士である剣心か。
「谷も偉くなった様だな。こんなに大きな屋敷建てるぐらいだから」
廊下は長く、西洋式の建築である。
そして家具も殆ど一級品ばかりだ。
それを見渡しながら歩いて署長の後ろを着いていく。
剣心は私の言葉に頷くだけだった。
恐らくは黒笠のことを考えているのだろう。
今の実力では怪我を負わずに倒せるのはまず無理だろうし、幕末の頃を思い出して人斬りに戻りかねないなんて不安を抱いている。
私は人斬りの剣心が戻れば真っ先に飛び付くだろうけど、今の剣心でも悪くはない。
「剣心不安なのは分かるが…鞘の役目は心配しなくていいよ。ひょっと何かあれば私がいるでしょう」
左之助には聞こえないように剣心に近づいて耳打ちしておいた。
剣心はその一言で私ににっこりと微笑んで安心したようだった。
その笑顔は本当に優しくて勘違いしそうになるぐらい。
薫さんがいるのだから鞘にはなれたとしても愛してもらうことはないのだから、期待してはいけないのだ。
私を利用していいのは剣心だけだよ。

そんなひねくれた感情を頭の隅へと押しやって前を見れば署長が谷のいる部屋へと入っていった。
暫くして谷の大きな声が聞こえ始めた。
体型の肥えた中年男性特有のその声は不快でしかない。
「そもそも外部のどこぞの馬の骨を助っ人に頼もうとするなぞなんと誇りのない!!その助っ人がお前の配下全員合わせたより強いとでも言うのか!?恥知らずめが」
恥知らずはどっちだよバカ丸出しの中年太り野郎め。
汚い言葉で罵っておきたいところだが、その言葉を飲み込んで黙っておく。
「…面目もありませんがその通りです」

署長殿の言葉のあと剣心がドアを開けて谷のいる部屋へと入っていく。
それに続いて私も顔を覗かせておけば谷の表情は憤慨から驚きへと変わった。
「聞いていれば谷さんも随分偉そうになりましたね」
剣心は呆れているのだろうきっと。
こんな世の中にするために人を殺してきたのかと。
「桂龍です。背中を貸して剣心と剣林弾雨からしょっ中守っていた幕末の頃とまるで別人ですね!」
私も剣心に続いて挨拶をさせてもらっておく。
「ゲッ!!」
まさか抜刀斎と麗鬼がいるとは思わなかったのだろうが余りにも情けない。
「おいおいどこが選りすぐりの最強だよ。どいつもこいつも一度はブッ飛ばした覚えがあるぜ」
谷の私兵を見て喧嘩屋だったらしい左之助は半笑いで私を見ながら言った。
生憎知り合いはいなかったものの左之助に負けるぐらいで最強とは笑えたものである。
「馬の骨が護衛ではさぞ心外でしょうけど今夜一晩は大目に見てやってください」
にこりと剣心が眉尻を下げて優しく諭すように笑っておく。
それは逆らうことは許さないとの意も含まれているのだからやっぱり剣心は変わってしまったようだ。
昔なら作り笑顔でさえ見せなかったのだから何だか盗られたようで切なくなってしまった。
「と…とんでもない。見に余る光栄です…」
その笑顔に圧倒されて震えながら言っているのだから可笑しくてついつい笑ってしまう。
「つー訳だからよ。今夜だけは昔のコトは忘れて仲良くやろうぜ」
左之助も私兵に笑って威圧しているのだから案外この二人は似ているらしい。
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