Dance with me

□第3話
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朝、決まった時間に
樫原さんが起こしに
来てくれる。

アーリーモーニングティーを持って。


あたし好みの味に
調整されているのは・・・
きっと樫原さんが
真壁さんに聞いたんだと思う。


ベッドでティーを飲む横で
カーテンを開けた樫原さんが
あたしの制服を出してきて
着替えやすいように
準備してくれる。


ベッドから出たあたしは
パウダールームで
顔を洗って
髪の毛を梳かす。


これまでは自分で
全て準備してきた。


でも樫原さんは
そういう支度も手伝ってくれる。


最初はすごく恥ずかしかった。


だって・・・自分で
髪ぐらい梳かせるし
化粧水を塗ったりとか
まつげをカールさせたりとか。


制服のリボンだって
自分で結んでいた。

でも・・・樫原さんは
徹底的にあたしを
甘やかすかのように
全てやってくれる。


断っても


「これは執事としてじゃなくて、私があなたにやってあげたいのですよ」


なんてにっこりと
笑顔で返される。


「私があなたを甘やかすのは・・・、お嫌ですか?」


そう言って、少しだけ
悲しそうな顔をされると
あたしはなんにも言えなかった。


嫌・・・とかそういうのじゃなくて
ただ恥ずかしいだけよ。
小さな子どもに戻ったみたいで。



そう呟いたあたしの頭を
樫原さんがクシャっと撫でて
あたしの目を覗き込んだ。




「私にとってお嬢様は、とっても可愛い女の子なので、どうしても甘やかしたくなるんですよ」




その仕草と声に
どきっとする。

あまりにも
それさえも優しくて
甘いひと時だから。


「あたし・・・・女の子っていう年じゃないよ。もう17だもん・・・」


呟いた声が聞こえたんだと思う。



「言い間違えました。」


「え・・・?」


ふっと笑う気配がする。

・・・この笑顔に
心が惹かれてしまうのは
きっと今真壁さんがいなくて
心細くて不安だからだ。

そう想いながらも
あたしは樫原さんの
笑顔から目が離せない。



「お嬢様は私にとって、とても大切な女性ですので、世話をしたくなるんですよ」

「こうやって、私があなたに触れることをお許し下さい」



思わずどぎまぎしてしまった。


“女性”・・・とか・・・・
“触れる”ことって・・・・。



そんな風に言われると。

妙に意識しちゃって
とっても恥ずかしくなってしまう。



赤くなって
目を伏せたあたしを
樫原さんが柔らかく
微笑んで見ているのが感じられる。



ずっと返事を
待っているかのように
沈黙が続いて・・・・。


沈黙に耐えられなくなった
あたしが先に観念した。



「・・・樫原さん、あたしの支度を手伝ってください」



「ええ、喜んで」



にっこり笑って
そう言った樫原さんは
すごく嬉しそうだった。


その笑顔を見てあたしは
また樫原さんの思うがままだな、て思う。


なんだかな〜。
全て樫原さんペースだ。

義兄さんが自分で
ネクタイを結べなくて
樫原さんが毎朝
結んでいるっていうのも、
すごくわかる気がした。


樫原さんは・・・多分
すごく世話好きなんだと思う。

言葉の真意を汲み取るより
そう思おうとした。


だから毎日
樫原さんに
髪の毛を梳かされ、
ほんのりとお化粧を
手伝ってもらって、
制服のリボンを結んでもらう。

化粧水をはたいてくれて
少しだけお粉を乗せる。

樫原さんの指が
あたしの肌に触れる。

肌越しに伝わってくる
樫原さんの指先は
丁寧で繊細に動いて、
とても気持がよかった。

リップクリームも
筆でつけてくれる。


簡単でいいんだよと言ったら


「指でつけましょうか?」
と軽く言われて
ドキドキした。



あたしの肌を走る
樫原さんの指は
とても・・・・優しくて。



本当に全部
甘えてしまいたい気持になった。


(指でリップクリームを塗る・・・なんて)


そんな大胆なこと
真壁さんでもしない。

たまに塗りすぎだぞと
少し赤い顔で
指でぬぐってくれることはあっても。

なんでこんな
ドキドキすることを
この人は平気で言うんだろう。


やっぱりあたしのことを
“小さい女の子”としてしか
みていないのかもしれない。
そう思っていた。




朝ごはんもすべて
樫原さんが準備してくれる。


姉さんに聞いたと言って
最初の日から
毎日朝食は和食だった。


あたしと姉さんが
二人暮しをしていた頃
毎日食べていた和食。


大好きな和食の
レパートリーが並んでいた。


味付けもすごく似てて
すごくびっくりした。


「どうしたの、樫原さん?すごく・・・味が・・・」



「お嬢様はこのような味が好きだろうと思いまして」

何でも無いことのように
そっと微笑む。


樫原さんって
色んなところに気がつくんだ。





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