蜃気楼の書物携帯版

□佐倉工房物語5…大喧嘩
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―今日から君はゲーム&ウォッチの一員だ―

…違う…ボクは人間だ…!

―戦え!お前は私達の兵士だぞ!?―

嫌だ…人を傷付けたくない…!

―貴様は興味深いな。よし、我々の一員にしてやろう―

止めて!…故郷に帰してよ…!

―喜べ。貴様を永遠に我が妾にしてやる―

嫌…止めて…嫌、誰か…誰か助けて…!



「…っ!」

嫌な夢を振り払う様に、ボクは急いで起き上がった。だが、そこはいつもの布団で無ければ、ボクが見た事すら無い牢の中だった。比較的近代的な牢を見るに、どうやら異世界では無い事に少なくとも安堵した。
とにかく抜け出す事を考えたが、生憎両手足は枷で封じられて、少し身を起こす事しか出来なかった。
そういえば、やけに肌寒いと思ったら服を全く着ていない事に気付いた。…燕尾服は何処に行ったんだろう。アレ、暖かいのに…。
少なくとも…これだけは分かる。…今回ばかりは、王子様は助けに来てはくれない。


『マルスの、馬鹿ッ!』

ウォッチのその一言を聞いた時、僕は何とか言おうと思ったが、口が思う様に動かなかった。何故なら彼女が怒るなんて初めてだったし、何よりそんな反応をするとは思いも寄らなかったからだ。

彼女が扉の向こうに消えるのを見て、僕は彼女を追わなくてはと思う反面、何故追うのかと疑問に思った。そして果たして僕が悪いのかとも。疑問は次第に苛立ちと変わり、時間が経つ程に苛立ちは募っていった。

故に、隣でロイが何を話そうとも、僕が耳を傾けないのは正当な理由なのだ…」
「うん、取り敢えず友人を何だと思ってるんだお前は。つか、普通に俺の聞きたい事しっかり話してるし」

僕の隣で律儀にロイが突っ込む。ちなみに今、僕は食堂のテーブルで、スマッシュブラザーズの英雄達に取り囲まれている。
彼女はどうやら屋敷から出て行ってしまったらしく、今から彼女を捜索しに行くらしいが、僕を連れて行かなければ気が済まないらしい。
そりゃあ、僕だって彼女が心配だ。だが、どうしてもこの流れだと、見つけた時に僕から謝る事になる。それに納得が行かないのだ。
そんな事を考えていると、後ろからあの超迷惑破壊神クレイジーがやって来た。悪戯っぽい笑みを浮かべるその顔に警戒の眼を向けると、楽しそうに喋り始めた。

「あラあら。王子サマは捜シに行カなイのかシラ?」
「何故僕が?…それに、彼女ならその内戻って来るだろう」
「フーん…なラ、ゲームでもしナい?勿論、コのスマッシュブラザーズ全員デ」

成程…この女、僕を賭けで負かせて連れて行こうというのか。だが、破壊神は僕が予想もしなかった答を喋り始めた。

「そうネェ…例えバ、ウォッチちゃンを見ツけた人ハ、ずっとウォッチちゃんヲ好キにシても良イ…なんテどウ?」
「…」

これには流石の英雄達も黙り込んでしまった。彼らは人を支配する事はあまり考えていないし、何より僕の怒りを予兆しただろう。
だが、そんな中でただ一人、高笑いをしながら立ち上がった男がいた。…そう、ハイラルの魔王ガノンドロフだ。

「面白い。その遊戯、乗らせて貰うぞ」
「あラ、魔王様モ参加ね?面白くナッて来たワ」
「あらクレイジー、私もやるわよ?」

そう名乗りを上げたのはピーチ姫だ。更に次々と名乗りを上げ始め、遂に僕の苛立ちはピークに達した。

「…良いだろう。そのゲーム、乗ってやる。…僕の物に手を出そうとした事、後悔すると良い」

そう言って僕はまだ暮れそうには無い陽の当たる玄関へ足を運ぶ。それに続けて、英雄達も各々の足の向くままに行き始めた。
後ろで見送る破壊神は、さぞかし満足な顔をしている事だろう。



「なぁおい嬢ちゃんよ。いい加減連絡先教えてくれや」

いかにも堅気の人っぽくない男が、ボクの顔を持ち上げてそう言う。ボクが振り払おうとすると、男は楽しそうにボクを蹴り倒した。思わず苦悶の表情を浮かべるボクに男は更なる攻撃を繰り出そうとしたが、側にいた男に制止された。制止した男が、ボクの太股から膝へ指をなぞった。

「まぁ良いさ。連絡先を吐かないなら、その身体を売って貰うまで。かなりの上玉だからな。…丁重に調教しなくては」
「おいおい、俺にさせてくれたって良いじゃねぇか?」
「お前は乱暴だからな。商品に傷をつけては元も子もない」
「…チッ、好きにしやがれ」

そう言って乱暴な男がそっぽを向くと、目の前の男がボクの身体に手を這わせる。明らかに慣れたその手つきに恐怖し、抵抗しようとしたけど、鎖がそれを阻んでしまう。遠い昔の記憶が甦り、泣き叫びそうになったその時――
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