プリキュア創作4

□ほまれのイップス
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「え、最近スケートの調子が悪い?」

お互い高校生活がスタートしているというのに、ほまれの方から会いたいといって来てみれば結構深刻な話をされてしまった。

「…やっぱり、大会に出れないのがモチベーション低下に繋がってるのかな?」
「…分からない、けどそうは言いつつ今年の三月くらいから大会は自粛してるけど、何故か四月になってから調子悪くなった気がするんだよね、なんでだろう」

…うーん、ほまれはただでさえ一回全く滑れなくなってしまったから、イップス自体はもしかしたら年単位で癖になっているのかもしれない。
個人競技なんてそれこそ調子の良しあしは自分でも自覚出来ない世界であるとは思う。ほまれがスケートまた滑れなくなってしまうと、未来に帰ったハリー達にも申し訳つかなくなってしまう。
ハリーに失恋したから、スケートが上達出来た。
そういうプレイヤーに私の方からもカバーしてあげてほしいって、彼から託されたもんね。

「とりあえずいつものはぐくみ市のホームのリンクで滑ってみましょう、ほまれ」
「…悪いね、さあやも高校で新しい人間関係あるってのに」
「…いいの、いいの」

…それを言ったら私だって本当ならほまれの高校の新しいお友達のことを知ってはおきたいけど
…さすがにそこまで踏み込んだら失礼よね。私だってそこまでデリカシーない訳ではない。
…ほまれにはほまれの新しい環境でちゃんと新しい人間関係を作れる強い子にはなってほしいとは思っている。
…そりゃ寂しくはあるけど、私の好きなほまれはどこまで行っても輝いている輝木ほまれだ。
…私なんてたまに思い出すくらいでいいから、たまにスケートを見て上げるくらいでいいから。
気にせず、落ちない流れ星のようにずっと輝いていてほしい。
…あ、でも彼氏とか私に内緒で作らないでよね!あ!やだ!やっぱりすっごく嫌な気持ちになってきた!ほまれがしれっと彼氏彼女連れてきたらどうしよう!嫉妬で死んじゃう!

「…では、滑らせていただきます…」
「…はい」

すいーっとプリキュア。

ってなもんで。

「あれ、普通に滑れてるじゃん」
「ほ!四回転ジャンプ」
「わーすごいすごい!」
「三か月ぶりくらいに一発で成功しました」
「…はあ…」

あの、ほまれさん。言いたくはないんですけど。

「全然イップスでも何でもなくない?」
「うーーーん、やっぱりスケートリンクのせいかなあ。けど三か月前の大会でも別会場で普通に滑れてたし、他に原因あるかな…」

プルル、っと。

ほまれのことは気になるけども別の用事の電話が鳴ってきた。

「ちょっと出るね」
「どぞどぞ」
「あーもしもし?●●ちゃん?え、この間のドリルどこで売ってたって?あれ昔知り合いだったトラ…教授のオーダーメイドなのよね。また家に行って改造しにいってあげるから待っててね…ピッと」
「…さあやの高校のお友達?」
「うん、技術部に入ってみたの。趣味でやる範疇だけど、ほのかさんやトラウム博士との経験が活かせて楽しいの。あ、あと料理研究部や電化製品部にも入ったんだよー、それでねそれでね」

っと。
ついテンションを上げて話していると、いつの間にかほまれは氷の上から降りて私の近くまできていた。

「ありょ?もう滑らないの?」
「その…失礼なこと聞くけど…さあやって新しい高校で沢山お友達できたよね、元々多趣味だったし、人柄も明るくなったしで人気になるよね…」

っとイップス疑惑も晴れそうだったのに、ほまれの顔はさっきよりずっと暗かった。

「…いいなあ、さあやはお友達沢山いて」

っとこれまたほまれらしからぬ言葉が飛んでくる。
…あれほま?

「…その、ほまれはプロのスケート選手で背も中学からどんどん伸びてさぞやより人気者になっていると思ってるんだけど…違うの?」
「いやいやこっちの台詞だよ。さあやこそもっともっと可愛くなって私のこと忘れちゃうんじゃないかって心配でさ…ただでさえみんなに優しいし…」
…おんやー、ほま。
「…少し整理しましょう」
「うん」
「ほまれは新しい環境でその…オンライン授業とかは受けてる?」
「してるよ。ただでさえ選手は体調管理厳守だしね。っていうか私は基礎錬多いからそもそもオンラインと言えど同じ授業受ける機会も少ない」
「…でもある程度規制も緩和してきたし、仲良い友だちとかはいないの?」
「…いや、それが前の不良の時とは真逆で有名人みたいになっちゃったから話しかけ辛いんだよね…また変に恋愛してるって噂も経ってるし…敬遠されてるかも…」
「ほま!それは誤解ほま!」
いや、私はまだほまれに恋してるから!それを否定されると片思い確定なのは辛くはあるけど…
…それでも今はほまれの高校生活のカバーだ…
「勿論誤解をとこうと私もみんなの輪に入ろうとしたけど」
「…うん」
「…何だかいつかのアキとジュンナみたいに、私のことを師匠扱いしてくるんだよね…いや、嬉しくはあるけど、もっとこう普通に接したいよね」

…何となく、ほまれのイップスの正体が分かった気がする。
前にアンリ君と作戦会議した時に教えてもらったんだけど、ほまれが選手として開花出来た最大の要素は
ちゃんとしたリラックス時間を設けれたこと
らしい。
何でもプロの選手、とりたて柔軟性や怪我のリスクと隣り合わせのフィギュアスケートに置いては、緊張で筋肉が強張るよりもより意識しないで脱力することの方が大切らしい。赤ちゃんが高い所から落ちても怪我が少ないみたいに、ネコチャンがスッと着地できるみたいに。筋肉が柔らかいとそれだけ衝撃を吸収しやすくなるのだ。
けれど大人になればなるほど、意識して動かせる筋肉が増えるほど、脳からの指示を待つための硬直が動物の本能として増えてきてしまう。
スポーツに限らずどんな分野でも自分との戦いは他人との戦いよりも苛烈ではあるけど、とりたてスケートともなると意識しないでどれだけ力を消すことが出来るか。
自分自身の本能と脱力の世界の戦い。
それはかつてのほまれはろくに休憩時間もとらないで、ひたすらに無意味な練習をしてしまったから固くなった筋肉をコントロールできないで怪我をしてしまったと聞いている。
ほまれが柔軟で強い演技を出来るようになったのは。
ラヴェニール学園で普通の友達と普通に楽しんで遊べる時間が出来たからこそ、無意識化の筋肉も休めたとかなんとか。

まったく、僕が野乃はなに言った応援何て無責任だ、って言葉。
あれこそ無責任だったよね。ほまれという一個人の選手にとっては君達と普通に過ごしている時間こそが、スポーツ選手がみんな首から手が出る程欲しいとしている脱力の世界の癒しの力だったんだよね。僕もまだまだ選手として未熟だよ。

ってアンリ君が嘆いていたように

その脱力が、今高校生になったほまれには足りてないのからこそ前みたいな調子に戻ってしまったのかもしれない。

…そりゃイップスって言うくらいだから、自分で中々自覚出来ないのも当然だよね。

…正直世界情勢やコロナのこともあるので一概に自己管理が出来てないっとは責められないけども
…もしほまれがこれからもプロプレイヤーとして活躍し続けるためには普通の友達作りも休憩のためにに必要なことなのだろうか。

「とりあえずほまれ!二人羽織しましょ!二人羽織!」
「え、何で、今?」
「こっちも練習しなきゃ忘れちゃうでしょ!」
「う、うん…はいあーん…」
「ぱく!それでもう一回滑りにいく!」
「え?早速?忙しいなあ…もう…すいーっと…お!滑れた滑れた!不思議!」

…いやはやそれにしてもどうしたものかしら…

ほまれが活躍する為に向こうでちゃんとしたお友達を作ろうにしても、学校の授業の形態もあるだろうし何より今や大スターのほまれと普通に接しろってのも向うの学校のお友達のプレッシャーも凄まじいだろう。
…本音を言うと

…ほまれが私のことをスポーツ選手としても必要なトモダチでいてくれたのは嬉しいし
高校であんまりお友達が出来てない現状も、何だか彼女を独占しているみたいでぞくぞくしてくる。

…このまま、ほまれの唯一の脱力剤として

薬師寺さあやに依存させちゃおうかな

大人になっても、私だけのほまれにさせちゃおうかな

っとも思ったけど。

「…医者として…トモダチとしてもハリーやちとせさんに顔向けできないよねえ」

「あ、見て!さあや!はながキュアスタ更新してるよ!」

っと今度は私達の端末二つが同時に着信音がなる。はなが高校で作ったアカウントからの着信だった。
…そういえば改めて見てみるとほまれの高校用のアカウント、全然更新してなかったもんね。ここでもちゃんと気付いてあげれたら良かったのに。

「っておお!はな!また高校デビューでイケてるお姉さんになったんじゃない!?」
「…背もいつの間にか大きくってるし、そもそもイメチェンに関しては私達よりずっとはなの方が先輩だもんねえ…うわあ、イケてるグループ作ってるよ…よし…」

っとほまれはまた滑り始める。

…今度は一回も失敗しないで、本番のプログラムを全てノーミスで演技しきっていた。

「おお、調子戻って来たんじゃないの?」
「…さあや」

スーーーっと、ほまれが私のところにスライドしてくる。

「何?」
「…私もはなみたいに…とまでは行かないかもしれないけど、高校デビュー頑張っているよ。はなのフレフレもらったら、私もなりたい自分になりたくなってきた」

…やっぱり、私が言うよりほまれにははなのエールの方が元気もらえるのかな。
…さすが、元気のプリキュアよね。

「…けど…その…我ながら女々しいとは思うんだけど…」
「…うん」
「私が高校で色んな友達作っても、変わらないでトモダチでいてくれる?さあやにも向こうで新しい友達、いっぱいいるとは思うけど…」
「モチ!のろんほま!」
「ありがとう!さあや大好き!」
ほまれは氷の上にいるから前みたいに抱き着けにいけない。
そもそもソーシャルディスタンスがあるから密になれないけど。

ほまれの心はまだ、私の近くにいることを確認できただけでも、今日はよしとしようかな。

「でも彼氏は作っちゃだめだからね!」
「けど女の子からの告白は相変わらず多いんだよね…」
「そっちもダメだから!」

…ああ、やっぱり。
今だけは独占したいような。
ほま〜
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