プリキュア創作7

□猫になる若宮アンリ
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「はわわわ〜ただいま〜ネコちゅわ〜ん!今日も元気にしてたかなー?うふふ、ごはんが食べたくてにゃーにゃー鳴いてるんだね〜、今あげるからね〜」
「・・・正人、普段あげている時間より30分くらい早くないか?」
「あれ〜、そうだったかな〜?でもこのかわいいにゃーにゃー餌くれくれボイスをあと30分も聞いてたら悶死しちゃうからあげちゃおーっと」
「・・・良いのかい、甘やかして」
「いいんだよ〜僕は厳しく育てられたから、その分子供には優しくしないとね〜」
「・・・正人、ちょっと僕用事あるから外に出るね、ネコをよろしく」
「はーい、いってらー、アンリ」

 ってなことで僕は逃げるようにして喫茶店に向かう。そこでこの気持ちを発散する相手を待っていたんだけど、普段こんな呼び出し方法をしないから相手は何か緊急事態だと思って急いできてくれた。
 そう、普段僕はこんな時間にトレーニングや人との用事で外出するような人間ではないんだ。夜は休息に集中する時間。なのにこんな喫茶店にいるのはおかしいと、ネコに夢中の正人は気付かないけどそれに気付いてくれるだろう相手。

「アンリ?どうしたの?こんな時間に呼び出して!しかもメールじゃ伝えられない内容だなんて…何かあった…?」
「…ああ、これは動画で見てもらった方が伝わると思ってね」
「動画も今は余裕でメールで送られると思うけど…とにかくそれを見てアンリのリアルな反応が欲しいんだね…見せてよ」
 っと持つべきものはさすが幼馴染のほまれだ。僕が望んでいる反応をしてくれる。今の恋人は正人だからそれは口にしないで、とにかくさっき録画した動画の再生ボタンを押す。

『はわわわ〜ただいま〜ネコちゅわ〜ん!今日も元気にしてたかなー?うふふ、ごはんが食べたくてにゃーにゃー鳴いてるんだね〜、今あげるからね〜』

「…これは…正人さんの猫撫で声…すごい、あの人もこんな声出すんだ」
「…ああ、正人は自分が厳しく育てられた反動か、今動物を飼うと無条件に愛してくれる相手に溺愛してしまう傾向があるみたいだ。もう毎日これだよ。これを見て、どう思う、ほまれ」
「いや…良いことじゃない?私もリリーちゃんにこういう風に話しかけちゃう時もあるし、気持ちが分かるって言うか…何か悪いことでもある?」

 僕が去年謎のネコ化をして以来、正人はネコにハマってしまいいよいよ飼い始めてしまった。ネコ自体も人懐っこい子だったみたいで、劣等感や罪悪感に苛まれていた正人の過去のトラウマを癒してくれる、そんな存在になってくれたと僕も最初は喜んでいたのだけど…

「…でも僕がこんな時間に家を出ているのに、正人ったらネコに夢中で何も気にかけてはくれないんだ。今日なんてほら、ネイル少し変えたんだよ。付き合ってるなら帰宅したらまず反応するのはネコじゃなくてそこじゃない?」
「…あー、アンリの言わんとすることが分かってきた気がする…そうだよね、これはアンリにとって初めての案件かもしれない…自分のプライドの問題だよね…ネコに嫉妬してるとか…」
「嫉妬じゃないよ!いや、アニマルセラピーの効力は僕も知ってるし実際ネコはかわいい。そして正人の生い立ちを考えると無条件に愛を与えてくれる小さいものを慈しむ心が芽生えてくれて僕も嬉しいとは思うよ?将来僕たちの間に薬師寺先生の力で子供が授かった時には、こんな親になってくれるんじゃないかなー、って想像もできるし」
「そうそう、ペットの反応って将来自分が親になった時のシミュレーションでもあるんだよね」
「そう、僕は多分、子供にこんな反応をしてしまうのかもしれないと…怖くなった」
 正人の無償の愛を取られたんじゃないかと、寂しい気持ちにさせられてしまう。
「僕今日こんなにネイル頑張ったのに、猫はたたにゃーにゃー泣いてるだけで正人の愛を受け入れられて。努力している人間がまるで無視されているようなっていう…自分の努力に見返りを求めてしまっているみたいになっている…僕は自分のそんな部分が恥ずかしい」
「あっはっは、アンリは実力主義者なとこあるから、確かにネコちゃんに嫉妬しちゃうタイプかもね。いや、アスリートの我欲としては正しいけどね。それをネコに向けるのははともかく。昔のアンリだったら素人のはなにも直接物申してたけどね」
「そう、だから嫉妬じゃなくてそんな昔の自分がまだいたのかっていう、自分への失望。僕が僕自身を心配しているっていうか、正人も正人で、動物に愛を与えるだけで満足する人間になってほしくないっていうか、実際もっと努力している人間を労わってほしいっていうか…でも世の中には動物をお世話することで自己肯定感を癒して生きている大勢の人もいるだろうから…あんまり強く言えないっていうか…」
「…何だ、アンリもちゃんと、人のこと考えるようになったんだ。昔より成長して、イケてんじゃん」
「…え」
 ほまれはいつの間にか出されいていたアールグレイの紅茶に手をつける。僕は店員がいつの間にか来ていたことに気が付かなかったくらい、夢中になっていたのか。
「だって昔のアンリ…私をモスクワに連れ帰ろうとしていたくらいのアンリなら多分はなにキレたみたいに問答無用でその場で正人さんに感情的になってたんじゃないかな。それを一度私に相談することで冷静になって、自分自身を見つめなおそうとしている。これって正人さんのことを本当に愛しているからだよね。もう昔のアンリじゃないよ」
「…そりゃそうだよ。多分、僕の今の気持ちを、素直に伝えたら、きっと嫌われる」
 ネコばかりにかまけてないで、少しは僕を見てほしい。
 そんな弱い若宮アンリを見せたくないという気持ちもある。
「でも私はこの状態のアンリなら、もう見せてもいいんじゃないかなーって思うよ。正人さんもアンリのこの後ろめたい気持ちに気づかない人じゃないと思うし」
「でも今はネコに本当に夢中みたいで…こんなんだったらもっと去年正人にごろにゃんすべきだった…ってあ…」
 そんなことを言っていると携帯に通知が入る。さっきの僕だと気づかなかったかもしれないけど、アールグレイを飲むほまれを見て少しは周りを気を付けようと思っていたら気が付くことが出来た。
 …やっぱり、大切なのは一度冷静になることなのかな。この僕なら、きっと正人とうまくやれるのかもしれない。
「…正人から連絡だ。こんな時間に急に出かけて珍しいね、どうしたの?さっきはネコに夢中で気づかなくてごめん、何か気に障ることでもしたかな?…だってさ」
「ほら、大丈夫でしょ。っていうかやっぱり正人さんもアンリも似た者同士だよね。一度ちゃんと考えるクッションがあると、お互いちゃんと成長できるんだよ」
「…ありがとう、ほまれ。次は僕が君のクッションになれるかな」
「うん、さあやとの付き合いで何か悩み事があったらそん時はよろー」
「…分かった、その時がいつでも受け入れられるように、僕も心掛けるよ。お代ここに置いておくね」
「うん、私もこの店に久々にきたからたのしもーっと」

 やっぱりラヴェニール学園に残って良かったなと改めて思う。ほまれをいい友達にしてくれた野乃はな、薬師寺さん達に感謝しつつ、僕は正人との会話の為に同居しているマンションに戻る。
 …きっと大人になって子供が出来ても、彼女達とこんなやりとりをするのかな。
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