小説

□ホワイトデーSS:4
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「さっきルルちゃんはスランプはスポーツ選手とかなるものだって言ったよね」
「そりゃそーでしょ。スランプって本来は天才の調子が崩れることじゃない?非凡の者が言ったところで天才のごっこ遊びしているみたいで滑稽じゃないの。ただの実力不足なのに酔って見ないふりをしようとしてるだけじゃない?」
…ふむ、普段ルルちゃんに怒られてばっかだから気にしないようにしてたけど、案外自分の非に対しても辛辣に自己否定をする子なんだよな。忘れちゃいけないんだけど。
「よくスポーツ漫画とかで題材にされるからそんな天才の病気みたいな使われ方してるけど、まあ普通の職にもあるみたいだよ、スランプ。スランプって言葉が気にくわないんだったらそうだな、他の言い方をするなら」
少し間をおく。いくら僕がスランプの達人とは言ってもルルちゃんにとってのそれとはまた違ったものであるはずだし、なんだったら僕にとっての天才はルルちゃんなんだけど、そんな彼女の不調をスランプアドバイザーの立場から言わせてもらうなら。
「…成長の停滞気?」
「ガーン」
白目を向けて気を失いそうになるルルちゃん。本来なら僕がしそうなギャグ反応なんだけど、彼女がするとたとえギャグでも心配になってしまう。
「えっと…つまり何?私ここで成長ストップってわけ?」
「んいや、だから停滞期だって。止まっているんじゃなくて伸びにくくなっているんだよ」
まあ分かったように言っているけどほとんど母さんの受け売りなんだけどね、って言葉のあとにコメントを繋いでいく。
「大人になるってことはいつか自分がダメになることを覚悟するということでもあります」
「ふ、ふむふむ…」
「それは老化だったり、はたまた免疫力が低下して病気にかかったり、それくさ心の病になったりして少なからず全盛期の自分の『普段通り』から感性がズレたものになってしまいます」
「む、結鬼さんが言っていると思うと重い言葉だわ…」
「だけどその全盛期の『普段通り』にいかないからって焦って力んでしまうことがスランプの症状と言えるんだよ。『普段通り』いかなくて当たり前
、なのにそのズレをズレだと思わないで修正しないまま出来て当然なものだとプレッシャーをかけてしまっているから余計『普段通り』いかなくなってしまう。別にスポーツ選手とか芸術家に関わらず普通に生活している鬼ならだれでも体験することなんだよ」
何をメモしているだか分からないけど、一生懸命カリカリノートにとっているルルちゃん。
「ふむ…なるほど。けどつまり誰しもが衰えるから自分の限界を年相応に判断しろ、ってことかしら。私まだ21だけどやっぱりここらで成長の下り坂ってことかしら…」
「いやだから停滞期だって」
今さらだけど自分が瓶底眼鏡キャラだということが心底嬉しくなってきた気がする。そうそう、こーいうのですよ、僕が求めていた有能知識保有眼鏡キャラって!
…だいたい母さんの意見なんだけどね…
「それくさスポーツ選手にだって40越えてもまだ現役で成長し続ける選手っているでしょ?そーいう鬼達ももれなくスランプの悩みを抱えていたんだろうけど、それを乗り越えたからこそプロなんだよ。自分の体や心の衰えも自覚しつつ、それでもなお戦力として他の者より自分が優れているところはどこなのか。経験値か、はたまた力に頼らない技術力とか統率力とか。そりゃ全盛期に比べて物理的な伸びしろはないかもしれないけど、逆に自分の中で極めてしまったと思う分野に関しては早めにそれに固執することを捨てて新しい成長できる部分を見つけないといけないからね」
ある程度書き物がまとまったのか、色々吟味しながら質問を選ぶルルちゃん。思えばこんな学生っぽい姿見るのも久々だよなぁ。
「つまりまとめると、スランプってのは全盛期の感覚そのままにして伸びしろのない分野にい続けてしまうから起きてしまうことなのね。その分野にい続けていたいのなら、全盛期の感覚を修正する微調整のバランス感覚を養うとか。はたまたいっそのことこれまでの経験を捨てる覚悟で別の道に進むってことね」
「まあ後は普通に疲れとかもあるかもしんないし、案外長めに休むだけでも治るみたいだけどね、スランプ」
「いや、それは怖い」
ピシャリとそこはいつもみたいに反応するルルちゃん。
「だって休んでたら余計に感覚忘れちゃうんじゃない?私なんかは特にルーチンワーク的に創作してたところあったし、それを活かせる仕事に就けたから良かったのよ?それをどこかで休んじゃったら余計にリズムが狂っちゃうわよ」
「…ん、んまあその焦りで力んじゃってることもあるし…」
「んー…んじゃ今度は逆に私から質問なんだけどさ、ここまで言ってもらって正直ありがたいし、チヨにしては珍しくためになること言ってもらえている中めちゃめちゃ失礼なこと言わせてもらうとさ」
「うんうん」
「そうやってスランプとか不調を理由にしてずっと休んでる奴とかムカつかない?」
「ぐ、ぐっさー!」
ぐ、ぐっさー!
…思わず心の中で復調してしまう言葉である。
「お、おっしゃる通りでございます!」
「…あ、簡単に折れた。いやこちらこそごめんね。こっちから降ってきた話題だってのに」
「いや、ルルちゃんは正しいよ。そりゃ競争の社会なんだからスランプだろうが成長の停滞期だろうが弱ってしまった以上は勝負に負ける要因になるよね。特に漫画家といえど芸能関連のお客さん商売は不調がどうのとか言っても見てくれる鬼には関係ないことだからね」
「…ま、だからこそ自分で直せって話なんだろうけど」
「そ、そうだね…」
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