小説

□ホワイトデーSS:4
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んで未来編。
『どんな未来でも見守っていけるように』とか言いつつも結局僕自身が呆れるくらい未来に来てしまった結果になってしまったのだけれども、まあ僕の頑張りしだいで現代に帰れるかもだからあながち間違った台詞でもないのだ。
頑張り次第、頑張り次第なのだけど…
「ププッーダッセーチヨキチ!今期の評価Cだってよー、ププッー」
未来で贖罪のためにアルバイトみたいなことをしている僕だけど、どうもこのごろ調子が悪くて同期のエコになじられている現状である。
「まあまあここで良い評価とったらあんた余計に元の時代に戻りやすくなっちゃうからねー、悪い評価をとるってことはそれだけ私と一緒にいたいってことよね、うんうん」
「いや、違うよ。っていうかお前は僕の何なんだよ、この間だって意味深なこと言ってさあ。元の時代に戻りたいのがそんなに悪いのかよ」
悪戯な笑みをしながら心底嬉しそうにするエコ。
「うん、そうだよ」
こいつはこいつでルルちゃんとはまた違ったベクトルでめんどくさいよな…
「あ、断っておくと恋愛感情とは違うかなー。どっちかっていうと親戚?ほら、色んな次元の鬼が集まっている中でも私達って血筋が近い者同士みたいだからさ、親近感がわくんだよね。じゃれついてもいい相手がいるのって。さながら弟のように」
「奴隷じゃねーか」
結局恋愛感情とは似て非なる方向へと行ったもんだな。いやまあ鬼によっちゃあ恋愛関係のほうが奴隷らしいという者もいるかもだけど。
「…まあ別に僕もお前のことは嫌いじゃないけど」
「ほんと?やったー!」
…僕がお前にとっての弟ならなんつーか僕にとってのお前はテンションの高い犬って感じだよな。
「でも故郷に戻りたいって気持ちはお前も否定できないだろ」
「戻りたいたいのは本当に故郷なのか、それとも…フフ」
…そこらへんつっこむとまたおちょくられるので軽くスルーしつつ。
「まあそれを否定しちゃったのは僕自身でもあるんだけどね。確かに今期は調子悪いっていうか、心底元の時代に帰りたいなら自分の調子ぐらい無理矢理直すくらいの勢いで仕事に臨まないといけないんだけど………んあ」
そこまで話してあの話題を思い出してしまった。
スランプのルルちゃん。
結局あのあとわりかしすぐに桃太郎事件が起きてしまったので乗り越えたのかどうか分からずじまいのまま僕は未来へときてしまった。色々とドタバタしている中で互いに大変な中で掴んだ勝利(僕の場合バッドエンドに近いけど)だから結果だけ見ると円満に終わってはいたけど。
あのあと彼女は果たして乗り越えることができたのだろうか、未来に残っている作品をみる限りだと大丈夫そうではあるけど、自分自身に打ち勝っているかどうかはさすがに当人に聞いてみないと分からないだろう。
「んー何々?故郷の彼女のことでも思い出したー?」
「そうだよ」
「あらまあ素直な反応」
まあここはエコに習ってというか最後に僕に素直に話してくれたルルちゃんを思い出しての反応だ。
スランプってのは結局のところ自分にどんだけ素直になれるのかなのだろうか。
結局母さんの受け売りしかしてないで半ニート生活を送っていた自分としてはやはりイマイチよく分からない病気の一つであった。
もしこのまま現代に帰れたら、僕はどんな顔をしてルルちゃんに会えばいいのだろうか。っていうか今現在の不調のままだったらそれくさ現代に帰れるくらいの評価をもらえるかさえ分からなくなってしまう。
事は僕の考えている以上に深刻なのかもしれない。まあそれもスランプの怖さの一つだろう。
「ねー何ボケッーとしてるのー?妄想中?」
んでそんな時のエコである。
…確かに性格の違いはあれど種族上、僕に近い存在のエコ。彼女にも同じようにスランプの悩みというものはあるのだろうか。
母さんの受け売りとまではいかないものの(あんましこいつのは受け売りたくないし)、参考程度に聞いておくとするかな。
「なあ、エコ。お前スランプとか調子が悪い時ってどうしてるの?」
「おっほ、遂にお姉さんにアドバイスを求めてきたかー、うんうん関心関心。奴隷根性が座ってきたね」
「あーんまこの際スランプ抜けれるなら奴隷でもなんでもいいよ。お前の意見を聞かせてくれよ」
本気で困っている僕を見て存外めんどくさがったか(良いことを知った)、ちょっとソッポを向きつつ答えるエコ。
「んん、えーとそうだな」
不機嫌そうに忍者っぽいポーズをするエコ。
「五郎○のポーズ」
「タイムスリップものでそういった時事ネタはまずい!」
いや、まずいのだかなんつーか今までで一番正解に近いのかもしれない!禁忌のネタなんだけど!
ルルちゃんもちらっとは言ってたけど結局のところスランプってのは心の問題でもあるから、心の迷いの生じないルーチンワーク的な儀式を行うことで乗り越えることが可能なんだとか。
そりゃ名前は出せないけど時の人がやってたことだからものすごい信憑性だぞ!
「あーんやなんか違うな」
「いや、なんかほぼそれが正解に近いと思うけど」
「んやとは言っても私スランプになったことないからルーティンとか言われてもパッとしないし」
「そうは言っても年のせいとかもあるしね、スランプって」
「だいたいのことはご飯食べて寝れば治るし…」
「だから若者か!お前は!」
いや、まあいうて僕もそこまで年取ってる訳でもないし、ルルちゃんに言わせればファッションスランプとして年寄りごっこをしているに過ぎないのかもしれない。
やっぱり中にはエコみたいにずっと体の調子がいいやつだっている訳だし、認めたくないけど『自分のリズムを崩さない才能』のあるやつは確実にいるもんである。
「いやでも待てよ…?」
しかしそんなエコでもまだ何かいいアイディアがあるのでないかと模索している様子。なんだかんだ才能のある感覚派の意見だからまあまた非凡な僕にとっては突拍子もないこと言い出すんだろうけど。
しかし悩んでいるってことはエコなりにもスランプについて考えることはあるんだろうか?
そして少し間をおいて口を開けるエコ。
「子供を作る」
「は?」
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