プリキュア創作

□43話前ほまれとアンリ
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私は前にお世話になった外科医を紹介しようとアンリの車椅子を押していた。
「助かったよ、ほまれ。あそこのリハビリ施設ちょっと気になってたんだよね」
「良いんだよ、私に出来ることってそれくらいしか…」
…いや、本当ならもっと出来たことがあったと思うけど、これ以上言うとアンリに怒られそうだから一言添えておく。
「少しさ…困らせていいかな、アンリ」
「いいよ、今の僕の足で出来ることと言ったらそれくらいしかないしね」
…皮肉のつもりか。相変わらず怪我しててもアンリはアンリで安心するけど…
それでも私は彼が困りそうな本音を自分勝手に吐いてしまう。
「もしあの時さ、私が強く止めてれば、アンリは怪我しなかったのかな」
アンリは振り向く。彼のプライドを傷つける発言だと言う自覚はあった。彼はそんなこと私には望んでないだろう。
ただ私も、心が弱っていたと思う。気が迷ってしまった。
「さあ、別に」
しかし当の本人と来たらどこ吹く風な応答だった。
「あの時の僕は多分正人でも止められなかったしね。そもそも君にはみんなには黙っていてって僕から頼んだ訳だし、罪悪感を感じるのは筋違いってもんだよ」
「で、でも…」
「じゃあ逆に僕が君を困らせる発言をしていいかな、お返しに」
アンリは振り向き様に悪戯に笑う。笑ってはいるけどどこか昔の彼を思い出すトゲトゲしさは感じた。
「僕だって昔君が怪我した時は、全く同じことを思ってたよ、僕が君をもっと気にしてあげれたら怪我は防げたかも、って。ずっと後悔してたんだから」
あ、あの時って子供の時のこと言ってるの?
「そんな昔のことまだ気にしてたの?」
「じゃあ最近のことも言ってあげようか?『もしもっと早く怪我のことを相談していれば』『もしもっと早く家を出ていれば』。そんな『もし』なら君達と面会した後に何回もやったよ。今更君の『もし』を聞いたって多分自分で飽きるほど何回も言ってたことだよ」
「…そうだったの?」
「…あの後泣いてたんだ。嘘言うかよ。正人には言うなよ、絶交するからな」
…絶交だなんて、そんな、子供みたいに。
「だからこんなこと言うのはみんなに迷惑かかるからほまれ以外には絶対言えないけど、今のこの僕の状況はやっと『あの時のほまれ』と対等になれたと思ってるよ。プリキュアになれただけじゃない、僕は怪我をしてやっとあの時の君の気持ちになれた…辛かったね、今まで」
「そんなことないよ…だって私には…」
私の返答を許さないように、アンリは言葉を被せる。まるで本当に悪戯な子供みたいに
「ほまれはあの時の怪我が無ければ良かったって思ったことある?」
「…今は違うかな。少し前までは嫌でしょうがなかったけど」
「あの時の辛い思いがあったからこそ、今の自分がある………なーんて、優等生みたいなこと言うつもりはないけどさ。僕はきっとこの怪我をしなかったらキュアアンフィニにはなってなかったと思う。ほまれが野々はな達と出会えてプリキュアになれたみたいに。もう過去の『もし』に時間を割くより、この怪我があったからなれる未来の『もし』に、僕は全身全霊をかけてなりたい。そっちの方が興味ある」
アンリの瞳は輝いていた。今にもまたアンフィニになりそうな勢いで。
「ただ、だからといって同じような失敗をしようとする人間がいたら『僕みたいにはなるな』とは言うつもりだ。過去の失敗があったから今の自分があるとは言うけど、だからといってわざと失敗したり、同じような人間が目の前にいたら身勝手に助けるつもりだ。それが僕の目指す未来の若宮アンリだからね」
「勝手だね、いつだってアンリは」
「ただ今の僕の足はこんなんだ、出来ることに限界がある」
「………」
「…だからせめて正直に言うよ。今のほまれはまた昔のほまれに戻りそうで心配だ。出来るんだったら今度こそ意地でも止めたい」
「…知ってるの、私の悩み…」
「全部は知らない。けどあの日廊下で感じた違和感がずっと心に残ってる。もし君が同じ過ちを犯そうとしてるなら、僕はこの足を引きずってでも絶対に止める。本気で困らせてやる」
「困るな…そんなことされちゃ」
今のアンリなら、マジでやりそうだから怖いよ。
「…正直に言うと、僕はやさぐれてたころの君が大嫌いだったよ」
「そういえば日本に来たばかりのころはそんなこと言ってたね」
「完全に腐ってたよね。同じ舞台に立ってた者同士として当時は本気で軽蔑してたよ。こんな奴ともうスケートしてやるもんか、僕の経歴に傷が着くわ、ってね」
うーん、ずばずば言う。これぞアンリって感じだけど。
「だけど今の君がいるのは、そんなやさぐれてたころの君も認めてくれる、僕以上の友人がいてくれたから何だよね」
…はな達のことかな、って一瞬思ったけど、私の脳裏に浮かんだ言葉はある特定の一人の言葉だった。

私、ほまれさんのことがすき。
もっとすきになった。

…あの時の私も含めて、あの子は認めてくれてたのかな。
「実言うと今も僕は辛いか辛くないかで言ったらそりゃ辛いよ。けど僕がどんなアンリになったって、受け入れてくれる人が出来たから、僕は何にでもなれる自分を受け入れることが出来た。だからほまれ、僕からはもう『怪我をするな』とは言わないよ。言う権利がない。ただ…」
アンリはその足をプルプルとなんとか動かしながら、私のならべく正面を向いてくれる。
「僕にとっての正人は、君にもいる」
「………」
「怪我してボロボロになって、一生介護生活かもしれないけど、それでも未来を信じてくれる人。空から落ちた時は真っ先に駆けつけて受け止めてくれる友人は君にもいるんだ。だから本当に辛くなったら僕じゃなくて、彼女を頼ってくれ」
「…うん、分かってるよ」
「…あれ、誰とは聞かないのかな」
「聞かなくても分かってるくせに、意地悪だな」
「まあ『彼女』って言っちゃってる時点で、あのハリーって人ではないとは思ってるけど」
…ほんと意地悪。
「ハリーの件だけは絶対横槍入れないで」
「分かってる」
「…多分、ハリーに本当のこと言った後、私はどんな私になるか自分でも分からない」
「僕も分からないね、そればかりは」
「だけどきっと、どんな私になっても受け入れてくれる人がいることだけは分かってから、あの日の私とはもう違うことだけは信頼して」
「分かってるよ、幼馴染みのよしみだ。絶対秘密は守る」
…こんな時ばっかり、口が良いんだから。

私はアンリを外科医に送ってから、ひたすら走った。
本番に向けて気持ちを落ち着けるために、走ってればもしかしたらあの子に会えると微かに期待して。

あ、いた。

そうちょうど女優の体力作りをしてる彼女とは、ここで走ってればたまたま会える確率は高いのだ。
私がどんな私になって、いつどんなスタートを切ろうとも。
いつまでもこうして一緒に走れる彼女が隣にいてくれれば。私はどんな私にもなれるだろう。

「ほまれ、輝いてるよ」

澄んだ冬の青空に、そっと小さな星が瞬く。
…頑張るから、見ててね、さあや。
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