プリキュア創作2

□一瞬だけのほまれ
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「ほまれってさ、出会った時よりだいぶ丸くなったよねー」
「えー!太ったってことー…やだなートレーニング不足かな…私だけさあやの待つ公園まで走っていこうかな…」
「…いや、そういう意味じゃなくてですね…」

私達は夏休み、はぐくみ市のとある公園で待ち合わせて遊ぶことにした。先に公園の図書館で勉強しているらしいさあやの元に向かうため、私とほまれは適当に雑談しながら目的地に向けて歩を進めていた。
「ほら、私が転校したてのころ、ほまれは不良扱いされてたり、大人の男の人にも臆せず言いたいことを言えてたよね」
「あーまあそんな不貞腐れている時期もありましたね…けど私も不良をやろうと思ってやってた訳じゃないよ。あんまし嘘とか演技とか出来るタイプじゃないから、その時の気分のままの態度だっただけだよ」
…氷の上だと演技している分、オフのほまれは心の思うままに行動しているんだろう。
逆に言えば、プリキュアになれて普通の友達になれて無邪気に遊べているほまれも、今の正直な彼女の姿なんだろう。
…微笑ましい限りだね。
「…あー、でもアキやジュンナにも言われるけど、どうやらやさぐれてるころの私って一定数の女子に人気あるみたいなんだよね…何でだろう」
「…そりゃ、女の子はかっこいい女の子好きですから」
「…私としてはなりたい私の姿じゃないから、複雑だよね…」
「…う、それを言われたら」
私としてもキャッチコピーなので反論が出来ない。
本当に『かっこいいほまれ』を望むのであれば、彼女のファンとしたら氷の上のほまれだったりキュアエトワールのほまれを『かっこいい』と言ってあげなきゃいけなんだろう。
「…うーん、でも私も演者のはしくれとして、望まれている演技も出来る技術もないとダメなんだよね。どれくらいの需要はあるんだろう、やさぐれてる時の私って」
「えーおほん、不肖私も一人の輝木ほまれのファンとして、『やさぐれてる時のほまれ』の魅力のプレゼンをさせて頂きますとね」
「ふむふむ」
「何だか独占してくれそう!」
「えー!しないよ、多分!」
「強がってるけど、本当に大切なもののためなら優しくしてくれそうなギャップが魅力!」
「…あー、それはあるかも」
「怖い男の人がきたら守ってくれそう!」
「男の人限らず、迷惑そうな人がいたら注意はするよ」
…ってな感じで。
「まあ今のほまれもグレてる時の半分くらいの魅力は残ってるよ」
「うーん、そうなのかなー。私としては自覚はないけど…でももう半分を分析するとなると…」
ドン!
っと、公園に向かう途中の電柱に押し付けられて、急に顔を近づけられる。
「こうやって一見乱暴そうに束縛するポーズを取られるの、女子は好きなのかな」
「おおー」
やれば出来るじゃん!ほまれ!
「きゃー!すごい!ドキドキする!」
「っていうか電柱暑い!コンクリート熱っ!」
…っと、壁ドンならぬ電ドンは数秒も持たなかった。
「…ま、その抜けてるところも今のほまれの魅力だよね…」
「…うーん、そうかな…けどこれじゃあ守りたい時に守れないかも…」
「まあそこらへんはキュアエトワールとしてしっかりヒーロー出来てるんだし、素のほまれの魅力として残しておけばいいんじゃないかな」
「…ま、今はそういうことにしとこうかな」
そうこうしているうちに私達はさあやと待ち合わせている公園へと着いた。
「ちょっと遅れちゃったかな。遊んでた場合じゃなかったね」
「意外と広い公園だね。さあやとの待ち合わせざっくりとしか決めてないから、ちょっと探さないと。ミライパットで連絡する?」
「…いいよ、さっきの話の続きじゃないけど、ちょっと走りたい気分だし、私がここをぐるっと回るから、はなは反対側から進んでさあやを探してみて」
「あいあい」
っと言いながらほまれと180°回転して公園を一周探索してみるとする。けどほまれったら、この炎天下をたったか走っていくんだから、やっぱりすごい運動神経だよね。
「…って、あ」
しかし私は数十メートル歩いたところで、早速むこうのベンチで座っているさあやを発見してしまった。ほまれと私の進んだ距離としては1:9もないんじゃないだろうか。何だか悪いことした気分になる。
「おーい、さあ…」
「なあ、ちょっと。あそこでボケっと座ってる子。この間女優を引退した薬師寺さあやじゃね?」
「…え?」
さあやに駆け寄ろうとしたところ、真横を歩いていた高校生くらいのお兄さん達の会話を耳にしてしまった。
「あーほんとだ。テレビの通り優しそうで反論もしてこなさそうだな。誘えば簡単についてきてくれちゃうんじゃね?」
「天使って言うくらいだからな。最近暇してるだろうし、暇同士俺達に付き合ってくれるんじゃね〜」
「よーし、声かけてみっか!」
「あ…あの…」
高校生くらいの人達がぞろぞろとさあやのベンチを囲うようにして近づいていく。
…いけない、止めないと。
けど私もよく大人の男の人に怒鳴ったりするようなことするけど、それはある程度顔見知りの人だったりプリキュアに関連する人だったりする。
いきなり見ず知らずの人を怒鳴って止めるなんて、キュアエールとして一年間戦った私でもまだ『野乃はな』として躊躇してしまう。
…けどさあやが危ない…
一年前、転校してきたばかりの私を助けてくれたように、私もさあやを助けないと…
そう思って一歩踏み出そうとするも。

ドン!

っと、さっきの電柱を叩くより音より大きな音が、ベンチの横にある街灯から聞こえてきた。

いつの間にかさあやの隣にいたほまれが(走るの早い…それとも…)
まるであの時の怖いほまれに戻ったみたいな剣幕で、男の人達を睨んでいた。
街灯を叩いた腕で寄りかかりつつも、さあやを覆う様にガードしているように見える。

「…あ?」

「…ひ…!何か怖そうなやつが眼付けてきてる…!」
「…し…しらんふりー」

っと男の人達の集団はほまれを避けるようにして散っていった。

「…ほまれ、どうしたの?」

事情を知らなさそうなさあやが、心配そうにほまれを見上げる。

「ううん、何でもないよ。さあやと早く会いたくて走ってきちゃった」

…っと。

不良だったころの顔はまるで男の人達を追い払うためだけの『演技』といわんばかりに。
ほまれは正直な顔をさあやに向ける。

「っていうか何か腕ぶつけてない!?大丈夫!?」
「あー、ちょっといきおい余ってぶつかっちゃったかもー」
「もう!ほまれはスポーツ選手何だから!自分の体はちゃんとしてね!また怪我したくないでしょ!」
「あははー、さあやには敵わないねー」

…そっか。ほまれにとって、別に意識してなくても、正直な心でちゃんと望まれてる演技が出来てるんだ。
ほまれは自分のなりたい自分にも、自分より大切な人が望む演技でも。自然と出来てしまえるのが、今の輝木ほまれの魅力なんだろうな。
…やっぱり、ほまれは世界に輝く一流の演者で、親友だよ。

「おーい、さあやーほまれー、お待たせー」
「あ、はなー」
「へへーん、さあやと先に会えたのは私の方だったねー」

…願わくば、だけど。
ほまれのこのナチュラルな演技を守れるような。
そんな、二人の親友の野乃はなでいられるよう、私もがんばりたいな。
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