プリキュア創作4

□ちゆと先輩
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『先輩、引退おめでとうございます!』
『ありがとねー、ちゆー』

すこやか中陸上部で私が一年の頃からお世話になっていた先輩を送り出す会と称して私達は今流行のオンライン飲み会(お酒は飲めないけどね)で小規模ながら催し物を開催していた。
…にしても私以上に先輩が無念だとは思っているだろうけど
…本当はこんな形じゃなくって、もっとちゃんと祝ってあげたかったな。

『…ぐすん』
っと画面脇を見ると泣かないって決めたのにリョーコが啜り声をあげていた。
…そうだよね、私以上にリョーコが先輩にはお世話になってたもんね。

『ええ〜、ちょっとリョーコちゃん!?そんな!泣かないでよー』
『だって何度考えたって悔しいですよ!本来なら先輩達の引退は夏の大会なのに!開催できなくなったから実質もうこの時期に引退とか酷いですよ!みんな三年間頑張ってきたのに!』
っと。
…正直みんな内側では思っていても言わなかったことを、リョーコが代弁してくれたので、空気が悪くなるというよかリョーコの告白をまるで自分の言葉のように飲みこんでいる素振りを見せた。
…リョーコの親友として
…一応厳密に言えば関係なくはあるけど
ビョーゲンズという別の病気と戦っている立場の自分から、リョーコに助け舟を出さなければいけないだろう。
…陸上部だけではない、いつ、ビョーゲンズの進行で私達の責任で先輩やリョーコのような苦しみを味わう人を出してしまうのかもしれない。
…いつか来るだろうその日のそれこそ練習としても、彼女達の気持ちに寄り添わないと。

『…リョーコ、気持ちは痛い程分かるけど、先輩達の分まで来年私達が頑張りましょう』
『…うう、そうは言ってもさ…ちゆ』
『…ありがとうね、リョーコちゃん。泣けない私達の代わりに泣いてくれて、それだけで少し報われた気持ちになる』
そう言って先輩はコトンと持っているジュースを置いて、画面越しではあるけどリョーコにささやくように言う。
『…まあ私も泣きたい気持ちは山々だけど、ぶっちゃけ誰も悪くないことだし、全国規模で言ったらもっともっと努力しているはずなのに結果が出せないで泣いている選手もいる。その人達のことを想うと私達は所詮地区大会規模だし大丈夫だよ、って思えるよ』
『…規模じゃ、ないですよ』
『ちゆちゃん…』
これ以上リョーコを泣かせてしまうと彼女がまるで悪役みたいになってしまうので、ここは私が踏ん張らせてもらうとする。
『…誰だって頑張ってきた結果が欲しいのは当たり前ですよ。先輩、こんな場所だからって遠慮されているかもしれないですけど、その発言は無理してることがさすがに分かりますよ。結果の規模や勝ち負けは関係なく、三年間頑張ってきた意味がまるでなくなちゃっているみたいで、同じアスリートとして私達も悔しいんです。そんなこと言わないで下さい』
…っと。
普段からのどかやひなたに注意されている無自覚ぐいぐいペースを発動させてしまっているかもしれないけど。
リョーコの気持ちと。
来年の自分がそうなるかもしれない。
…何より嘘をついているかもしれない先輩を救いたくって。
私は自覚しながらも、踏み込んでしまう。
…先輩の、怒るかもしれない心の領域に、ルールーを無視して助走を切る。
…さ、どうだ。判定は。
『…最近になって急だけど、ちゆちゃんも二年生になって一皮むけた気がするよね』
『…え』
返ってきたのは落胆でも絶句でもなく。
いつもの優しい先輩の笑顔だった。
『前はルール通り飛ぼおとする堅苦しいジャンプだったけど、やっぱり後輩が出来て変わったのかなあ。二年になって責任やプレッシャーが増えた方が逆に肩の荷が下りるなんて、やっぱりちゆちゃんは不思議な子だったよねー、うんうん』
『…って、何か画面の向こうで勝手に納得されているようですけど…』
…私としては怒られるつもりでいたけど、これはこれで拍子抜けではある。
『…確かに三年間の成果を披露出来る場所がないのは悔しいよ。多分私の成績だと良いとこまでは行かないかもしれなけど、その『かもしれない』をちゃんとした結果としてはっきりさせたかった。こーいうのって私は恋愛したことないけど、告白に似てるのかな?たとえ失恋すると分かっていても、勇気を出すことが大事だし、ちゃんと失恋しないと次に進めなくなっちゃう』
『…はあ』
…そこらへん私もまだよく分からないのでコメントに困る。今度ほまれさんに聞いてみたいところだけど、まずはこの手の話をほまれさんにする前にさあやさんに一言聞いておいた方が良いだろうか。
…さすがの私もそこまでぐいぐい行くほどデリカシーがない訳ではない。
『…でもそれはあくまで中学三年の話。私達はこれからまた高校でも陸上は続けていくつもりだし、記録としての結果を出す旅はまだ終わった訳じゃないからここで心切らす訳にはいかないよ。それこそ、全国のライバルは今、ちゃーんと見えないところでトレーニングしてると思うしね!』
『…な、なるほど…』
…そう言われたらそうなんだけど、その答えを自分から言えるようになるまで先輩も沢山自問自答しただろう裏でした覚悟みたいなのはひしひしと伝わってくる。
私やリョーコが感情的になるよりもっと。
先輩達の方が悔しいし、何度も自問自答してもう泣き疲れているに決まってる。
…きっとあの解答は、私達が三年生になってみたいと同じ事を言えるかどうか改めて考えてみないと分からないものなんだろう。
『それに、大会に出なくっても、私達の三年間頑張ってきた結果は、数字の記録よりももっと大切な形で残ってくれたわ』
『え』
『え』
っと通人速度のラグがあるせいか私とリョーコは違うタイミングで感嘆詞をあげてしまったけど(リアルタイムだったらハモっていたと思う)、同じようなタイミングでポカンとしてしまった。

『私達の代わりに泣いたり怒ったりしてくれる、立派な後輩が出来たことよ。二人とも、私達が無念だと思うなら、来年の大会で記録を残してちょうだい。そしたらそれは、私の三年だけの記録じゃなくって、私達の四年の記録になれるから』

『…そ、そんな』
大それたことを、っと反論しようとは思ったけど、これまた通信速度の関係か私達のレスポンスを受け取る前に次の言葉を言ってしまう先輩。これもリモート飲み会の弊害何だろうか。

『…さっき、二年になったらちゆちゃん、一皮むけたって言ったよね。中学はただ三年生の引退試合に記録を出すためにやってるんじゃなくて、一年二年三年って三世代に分かれた人間関係を学ぶ機会でもあるんだよ。上級生になって後輩のめんどうをみたりするのも、自分の人生を通しての陸上以外の経験になるからね。先輩になって化ける子もいるっていうし、特にちゆちゃんはこれからもっともっと、私達以上に大きくジャンプできると思う』
『…私に』
先輩の想いを乗せて飛べるとはまだ思えないけど
…でもさっきあんだけ啖呵をきった以上は、責任を持ってぐいぐい行かせてもらうしかないだろう。
…私だってまだ、自分のことがよく分からないのだから、行くとこまでいくしかないだろう。
のどかや後輩、リョーコの面倒を見ながら。
…先輩の想いを告いだ二年生になってみんなの想いを乗せて飛ぶ。
…どこかでパンクしてしまうのかもしれないけど、その時はその時までの選手だったんだろう。
…けど今の私は知ってる、困った時は重いものをみんなで持てばいいし
それに…

『…立派な先輩の後輩ですもの、ちゃんと出来るか分からないですけど、先輩の意思を告いだ選手になってみます。来年の大会、楽しみにしてくださいね』
『…うん、あー。これでやっと安心して引退できるねー』

正確に言うなら私が来年の大会で結果を出した時に先輩の三年間の結果は出るかもしれないけど、その時はその時でまた、私の想いを引き継いでくれる後輩とかいるんだろうか。
…季節が巡るように、人の想いもこうして受け継がれていくのかな。
…まだ春じゃないけど、そんな命が一周したさわやかな門出になれてたら、幸いだな。
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