プリキュア創作5

□高校生のほまれ
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「んー学校に着いたは良いんだけど…」
ちょうど海外の遠征から戻ってきて数時間くらいは授業に出れそうだったから高校に立ち寄ってみようとは思ったけど、飛行機の時間がトラブルでズレこんで30分くらい予定から遅れて到着してしまった。
雰囲気は見るからに授業中の校内。30分という中途半端な時間故、今から教室に入っても良くわからないところから講義を受けることになるだろう。
…まあ勉強は後からでもできるから別にいいんだけど、やっぱり高校卒業の資格は将来的に潰しは効くし、お母さんも安心させたいから出席日数はほしいところなんだけども
「この学校の雰囲気…何か中二の時に授業サボっている時思い出しちゃうな」
勉強は実はそこまで嫌いではない私だけど、授業になんとなく出たくないからサボっていたころを思い出す。こう、世間から隔離されたくて、でも学生という身分にはいたくて、みんなが授業している時にそんな不思議な空間で一人になることがなんとなく当時の私には『イケてる』って勘違いしてしまったあの頃。
…今にして思えば中二病?ってやつだったかもしれないけど、このノスタルジーな雰囲気に私はつい昔を思い出してしまう。
そうそう、ちょうど屋上とか、体育館の使われてない一室とかで隠れて遠くの授業を眺めてたころ、あったよね。もちろん今の私はそれはよくないことだって分かるけど、何だか昔の自分と今の自分の対話をしているみたいで今はそれに酔ってしまっている気がする。
…これはこれで高校生ながら昔を懐かしんでしまう、高二病ってやつだろうか。お母さんに聞くと大学生にも社会人にも新婚生活にも二年目特有の病気みたいなものあるみたいだし、私も順当にそれを味わっているんだろうか。
「…ま、本当は良くないんだけど…今だけは良いかな」
そんな刹那的なことを言うと、中学生の頃は真面目な委員長ちゃんのフリが上手だったあの子にあとでこっそり怒られてはいたけど。
…今、この学校にはさあや、いないからいいよね。
少し寂しくはあるけど、今はこれが私の高校生活なんだ。そう思って一瞬だけ昔の中学生の輝木ほまれを大切にしてあげようと、当時の感覚で誰もいないだろうと踏んだ体育館の一室に入ってみる。
「…あ」
「…げ」
いた。先客だった。どうやら授業中ばったり、っと言った雰囲気ではなく、昔の私と似た雰囲気のアウトローな子が一人でいそいそ卓球台の上に座ってスマホをいじっていた。
「…委員長…?」
「じゃないです…失礼しました…」
「ちょ…ちょっと待ちなさいよ!」
っと更にどうやら私のことを誰かと勘違いしたようでより気まずい。むしろ私は逃避したい側の気持ちは分かるのでとっとと退散してあげたいところなんだけども、呼び止められてもしまった。
「あ、あなた…先生に言うつもりでしょ…」
「…いや、別に。適当に時間つぶす場所探してただけだから、先住の方がいるなら経緯を払って縄張りは荒らさないようにと思ったけど」
「…失礼な言い方ね、それ」
…うん、私も今のはプリキュアとしてちょっとどうかと思う表現だったけど
…今は悪い子ちゃん帰りしてるからちょっとだけは許してね…
「…そう、でも見たことない顔ね。ここらへんでサボりスポットを探している連中の顔はチェックして私も人の領域には踏み込まないようにはしてるけど。あなたもしかして転入生の口?クラスになじめなかったとか?」
…って結局何かおしゃべりモードになってるし。
…そうだよね、前の私もそうだったけど、別にグレたくてグレた訳じゃなくて、
トモダチ
になれるような誰かがフラっとさぼりスペースに来てくれるシチュエーション自体には憧れがあった気がする。白馬に乗る王子様を待つ王女様とか、そんな大層なものでもなくて
ただ単に、このアンニュイな空間で二人でお喋りできるような、ちょっとだけ背徳感を交えて秘密を共有できるトモダチ。
…最初に私のことを勘違いしていたその『委員長』って子も、その子にとってはかつての私のさあやだったのかな。
…もう私は中学生ではないけど
…さあやの代わりにはなれる存在になったんだろうか。
「…まあそんなところかな。あんまり授業に参加できない身でしてね。今日は珍しく登校したんだけど、結局遅刻みたいなタイミングになっちゃってサボるとこ探してたんだよ。他にいい場所あったら教えてくれると助かるんだけど」
「…ふーん、そうなんだ。あなたみたいな人もいるんだね。見た目は真面目そうなのに」
…ってそこは本当に私も中二からは変わってしまったところかな。今やってる演技の課題曲の誠実なイメージを表現するのもあるんだけど、今の私は一応は真面目な学生の雰囲気には戻れているんだろうか。

「…別に、あなたが良いならだけど、ここにいてもいいわよ。悪い子ではなさそうだし…」
「あはは、助かる。授業をサボる悪い子同士ではあると思うけど」
「…揚げ足は取るのね…別にいいけど」

…うん、やっぱり。
この子は昔の私と似ているかな。性格は悪くないんだけど、何か後ろめたい理由があるから授業とかクラスのコミニティに今一歩参加できてないタイプと見受けられる。何かのきっかけとシチュエーションさえかみ合えば、こうしていきなり出会った知らない人とでも会話できるくらいの心の余裕はあるみたいだった。
「…プライベートを探るようだけど、その足。ちょっと庇っているように見えるね。怪我してるの?」
「…何…あなた医者か何か?」
「いやまあ職業柄、つい」
「…ただの学生ではないみたいね…あなたも」
…っていうかスポーツ進学校なのに私の存在を知らないんだろうか。まあある程度有名人揃っているみたいだし、お互い忙しい身だと他の分野で活躍している子は知らなかったりするものだよね。
…言うて私から見たこの子は普通の学生さんかもしれないけど、もしかして何かのスポーツのスターかもしれないもんね。
…今は休憩中、ってだけで。
「…本当はもう、治っているみたいだけど、何となくリスタート失敗しちゃったかな」
「…そう」
「いざまた勝負の世界に戻るのは怖いし、だからと言って今更クラスに馴染むのも何か面倒。どっちでもなくなっちゃったのよ、私。だからこの空間にいるのがちょうどいいって思ってしまう」
わかるわー、っとまでは今の私の立場の私からは言えなかった。
だって
「…でも私が最初部屋に入ってきた時、別の誰かと勘違いしてたでしょ。その子とは仲良くないの…」
「…うん、別に嫌いって訳じゃないんだけど、委員長」
私がクラスに馴染めないことをなんとなく遠目で気にしてくれて
近づきすぎない距離感で見守っていてくれるあの子。
「その子が言うには、元々学校なんてタイプの違う人の集まりで馴染めないのが寧ろ当然だから、気にしなくていいよって言ってくれるの。タイプが違うながらも、その中で波長が少しでも似ている子と仲良くなろうとする姿勢さえあればいいんじゃないかって」
「…ふーん」
そこまで言うのはちょっとさあやっぽくない子ではあると思うけど
ま、さあやみたいなのがそんなポンポンいたら怖いよね。

「出来るのかな…今の私に、そんなこと…もう誰も私と仲良くなりたいなんて、思ってないよね…」
「…君の状況がどこまで把握出来ているか、よくは分からないけど」

私とさあやがそう言えばこんな会話をしたのははなと出会う前の屋上だったような、はなと出会ってからの公園でのひと時だったのかはもうよくは覚えてないんだけど
あの頃の私に言ってあげるように、言葉を届ける。
こんなシチュエーションで言えるの、学生ならではだしね。

「今ばったり出会った私とここまでお話できるんなら、大丈夫だと思うけど。お医者さんがもう治ってるっていうなら、あとは心の問題だと思うよ」
「…本当?」
「うん。少なくともあなたを心配してくれている委員長ちゃんとは同じような会話できるんじゃないかな。向こうもそれを願って話しかけてくれてると思うし」
「…でもあの子と私とでは、タイプ違うし」
…ま、そこはその子の言葉を借りるとしよう。受け入れるのに時間はかかると思うけど、概ね正しいことは言ってるもんね。
「タイプの違う子だけど、合う波長を探すのが楽しいって思える関係ならすぐにトモダチになれると思うよ。その違いが素敵だって分かる時が、多分いつか来るかと思うから」
…考えてみたら私とさあやだって、全然タイプ違ったけど仲良くなれたもんね。
…ってそれは間にはながいてくれたからこそのおかげかもしれないけど
…だったら私が次に目指すのは、さあやじゃなくて案外はななのかもしれないね。
キーンコーンカーンコーン。
っと授業が終わったチャイムがこの背徳的な空間にも鳴り響いた。
「さて、私は次の授業に参加しちゃうんだけど、君はどうする?」
「…甘えなんだけど、多分次の休み時間にあの子、来てくれると思う」
「…そ、じゃあ本格的に邪魔ものだから退散しないとね」
「あ!あの!」
部屋から出ようとしたところを呼び止められる。
「…もし、あなたがよかったらだけど…またこんなころで会えたら、お話付き合ってもらっても…いいかな」
「…うん、できれば普通の休み時間とかでもいいんだけど」
「…それは善処します…あなたは本当は真面目な人の世界の住人だもんね、そこは私も戻れるように頑張る」
…ふふ、私が真面目な世界の住人か…そこは変われたところなんだろうか。
「…でも本音を言うと、サボりの場や休み時間のレクエーションじゃなくて、願わくば勝負の世界で会えるのも楽しみにしてるね」
「…そう言えば、あなたはどのスポーツの特進科なの?」
「…さあ、それは秘密」
分かってからのお楽しみ、って言うつもりだったけど。
「…分かった、私も本当はあなたや委員長をびっくりさせる存在だってこと、いつか違う場所で見せてあげるんだから。出来たらそこで会いましょう」
そう、先に彼女に言われてしまった。
…ははーん、あなたもさあやや私に劣らずの負けず嫌いだね。
「…うん、また会えるの楽しみにしてるね」

その後、結局忙しいからサボれる空間に戻れなかったってのもあったけど
数か月後、学校で開かれた表彰式の場で私とあの子がびっくりし合う日が本当に来るとは、この時は思ってもいなかったのであった。
彼女の名前を知るまで、あと○○日。
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