プリキュア創作6

□輝木ほまれ誕生日SS:2018−3
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 猫の声でもなく、他の運動部には聞こえていない、私、薬師寺さん、野乃さんにだけにしか聞こえてなかった謎の赤ちゃんの声。野乃さんが言うには私達三人を友達にするためにここに呼んだきっかけとは言っていたけど、私はそれはないかなとつい反論してしまった。だって・・・

「私は逆だと思うな・・・その、どんな仕組みかは分からないけど、多分だけど『私達を友達にしない』ために一旦ここに呼んでくれたんじゃないかな・・・その、結局赤ちゃんの声である説明には何にもなってないけど・・・」
「・・・友達に、しないため?」

 野乃さんは明らかに悲しそうな顔をしていて、薬師寺さんも声には出さないけど『どうしてそんなこと言うの』って言いたげな顔だ。
 ・・・私もこんなこと言うのは心苦しい、でもこれはこの子達の為でもあるんだと心の中の下唇を噛む。

「・・・だってさ、今さっきの会話の感じだと野乃さんに薬師寺さん、クラスでも同じ感じに私に話しかけるつもりだったんだよね。プリントとか転校生がどうたらって理由をつけてさ。まず断っておくけど、その気遣いはありがとうね。嬉しいよ、こんな私に話しかけてくれて。でも不良の私と仲が良いって噂になったら他に友達できなくなっちゃうから気を付けた方が良いよ。薬師寺さんは委員長なんだし、内申点に響くかもしれないし。野乃さんはせっかく転校してきたばっかりなんだから私みたいに友達の少ない子より・・・ほら、あきやじゅんなみたいに友達の多そうな子を選んだ方がこのあとの学校生活も充実するんじゃないかな。まあ転校初日で人間関係が分からないだろうからしょうがないとは思うんだけどね・・・何で赤ちゃんの声かは分からないけど、きっとこの三人しか分からない声で呼んで私にこう言わせるために集めてもらったんじゃないかな。『輝木ほまれだけは辞めておけ』って」

 今度は二人とも黙ってしまった。野乃さん何かは特にもしかしたら前の学校でも私みたいな不良にいじめられたから転校してきた、何て事情ももしかしたらあるかもしれないし、ここで早めに落胆してくれたら楽だ。そして野乃さんがいる場にはなってしまったけど転校生っていうフレッシュな立場だからまあ初回限定サービスってことで良いかな。こんな率直な感想、皆がいる前だと言いづらいだろうからこんな場所じゃないと言えないもんね。委員長なんて立場、大体内申点とか他にやる人がいなかったからだとかの自分以外の何かに気を遣わないとできないことだもんね。役職の義務を、私にだけは果たさなくても良いよって穏便に言えるのは、完全な第三者のいるこの場だけだろう。
 あー、すっきりした。やっと自分の中のモヤモヤを果たせたって感じだ。これって結構気持ちの良いことかもしれない。私はまだ告白とかしたことないけど、いざ自分の気持ちを抑えなきゃいけない状況って結構ストレスだもんね。言いたいことは言える内にいっておかないと。
 ・・・唯一心残りがあるとしたら、それは昨日おじいちゃんの言ってくれた言葉とは反対のことしちゃったことくらいかな。

 子供の時の友達という存在は未来の宝物になってくれる。

 ・・・でもそれはおじいちゃんの人生の話だ、きっと私には関係なかったんだろうな。

「・・・ほまれさん」
「・・・あれ」

 って私の予想だとここまで言えば野乃さんあたりは怖がって逃げて、人の心をすぐに察知してくれる薬師寺さんは気を遣って離れてくれる。そう思っていたんだけど、二人とも中々離れてくれなかった。
 ・・・私の見立てが甘かったのかな・・・いや、これは・・・

「・・・何でそんなこと・・・泣きそうになりそうな顔で言ってるの・・・」
「え・・・やば、顔に出てた?私?」

 ・・・結局私って中途半端だ。

 本当は友達がほしい。でも今の私の立場じゃ迷惑になっちゃうだろうし、大切なものができたらまたそれを失う怖さとの戦いが怖いから、今ここで突き放さなきゃいけないのに、結局まだ自分の中で子供の部分があって、それがどこか表情に無自覚に出てしまったんだろうか。
 自分の中の子供の部分・・・そうか、あの赤ちゃんの声ってもしかして・・・

「・・・ほまれさんが本当に友達を作りたくないなら私も無理に近づこうとはしないんだけど、何だか今のほまれさん、自分に友達を作らない理由を自分に言い聞かせているようで、それは見ていて少し悲しいな、って思っちゃうのよね・・・そう思ってなかったらごめんなさいなんだけど・・・私もほら、この場で言うのも何だけど、自分の心の中の子供の部分に蓋しちゃうところあるから、他人事とは思えないのよね」
「ほまれさん!」
「うわ!何!」

 って本当にこの二人って対照的だよね。優しく理性的に諭してくれる薬師寺さんに対して、難しいことはよく分からないだろうから体当たりで接してくれる野乃さん、この二人といると楽しい学校生活が送れるんだろうなってあってはならない未来を想像してしまう・・・あれ、なんであってはならないって、自分の中で決めつけてたんだっけ・・・

「勿体ないよ!ほまれさんみたいに綺麗でかっこいい人が!その・・・自分なんか幸せにならない方がいいんだ・・・って自分を縛っちゃ・・・」
「そこまでは言ってるつもりなかったけど・・・そうか、そう聞こえちゃったかもね」
「ほまれさんは私から見たら超イケてる大人のお姉さんに近い存在なんだから!あんまりかっこ悪いことしないで!お願い!」
「・・・かっこ悪い、ダサいか」

 何だか考えはまだまだまとまらないんだけど、今の時点で私は赤ちゃんの答えが何となく分かってきた気がする。

 きっとあの子は私達の子供の部分の象徴。もう身体は中学生になっているけど、私達三人ってきっとどこか他人に見えないところで心の成長がストップして、赤ちゃんの部分が残っているのかもしれない。そんな人達だけに聞こえる共通の赤ちゃんの声が聞こえて、その赤ちゃんを大事にすることで三人ともお互い自分の中の赤ちゃんの部分、他人の中の赤ちゃんの部分を大事にして愛することで、自分も愛せるようになっていく。
 ちょっとだけ淡い期待をしたんだけど、もしかしてこの屋上にはその赤ちゃんがいて、三人で育てたり、悪い人から守るヒーローの物語がここから始まって友達になれたりとかするのかなって思ったけど。
 ・・・さすがにそこまで都合はよくないか。でもきっかけだけは作ってくれたから、ここから先はイマジナリー赤ちゃんがいなくても現実の世界で三人仲良くなってことなのかな。
 ・・・どこかで見ている赤ちゃん、これでいいのかな。

「・・・ありがと、ダサいこと、今私しようとしてたかもね・・・私の名前は輝木ほまれ・・・その良かったら・・・」

 ぴんぽんぱんぽーん

 っと。

 赤ちゃんの声はタイミング良かったけど、現実のチャイムの音はどうやら悪かったらしい。

「あ、いけない、昼休み終わちゃったね」
「・・・その、また改めてこの三人でお話したいから、またどこかで会いたいな」
「うん!私ももっとお友達作りたいし!よろしくね!輝木さん!薬師寺さん!」
「・・・うん」

 せっかく昨日誕生日だったんだし、私も新しい自分にならないとだね。
 不思議と、さっきの告白より心の中はすっきりした気がした。まるで目標としていた演目を全てやりきったあとに見る、青空のようだった。懐かしい、本当はあの高い空を、心の中だけじゃなく本当にまた見てみたい。
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