プリキュア創作6

□天使の登校日
1ページ/2ページ

「おとーさん!がっこういってきまーす」
「はいいってらっしゃい。集団登校の班のリーダーのお兄さんお姉さんの言うことちゃんと聞くんだよ。さあやちゃん」
「はーい」
 さあやちゃんも産まれてきてくれて早いものでもう小学生である。桜の舞うはぐくみ市の四月。ランドセルを背負ったさあやちゃんは集団登校の児童が集まる場所へととことこ向かって行った。
「…っとは言いつつさあやちゃんがちゃんと登校できるのかすごく心配だ…ああ見えてたくましい子ではあるけどいかんせん好奇心の塊だから何でも興味持って見に行かないか心配だ…変な重機とかについていかなければ良いんだけど…」
 …ってそこも心配だけど我ながら最初に心配するとこそこじゃないだろとセルフツッコミをする。
「あはははー、はじめての小学校。たのしみー」
 そうスキップ交じりで道を歩く彼女の姿は。
「うう…我が娘ながら天使だ…かわいすぎる…あんな子が道に歩いてたら変なおじさんに連れてかれないか心配だよ…」
 あの子は見た目通り優しすぎてそれこそ重機もおじさんも分け隔たりなく平等に接してしまうだろう。誰にでも優しい、それは一見尊いように見えて無制限に誰かに優しいということはその分自分を犠牲にしてしまう危ない考えである。
 世間で生きていくということは、誰に優しくして誰に優しくしないかを自分で選ばなければいけない場でもある。
「…っとは言え小学生の段階でそれをしなきゃいけない訳でもないけど、きっと集団生活の中でそれを覚える場でもあるんだよなあ。学校。うう、さあやちゃんがちゃんと小学校やっていけるか、心配だ。お友達ちゃんと出来るかな…」
 …っとはいえ保育園での立ち位置や子役としての活動を見るに案外芯がしっかりもしていたので案外小学校でもケロリとしてそうな子ではある。あ、でも確かあの蘭世って子にはちょっと辛い思いをさせちゃったかな。いつか仲直り出来る日が来るといいのだけれど。
「…はあ、やっぱり本家の人に無礼を承知でボディガードとかつけておくべきだっただろうか…いや、手間はかけさせないとの約束でれいらさんと婚約させてもらったんだし、ここで台無しにする訳にはいかない」
 何なら僕がこっそりついていって見守る…それこそ危ない不審者だよな、第三者からしてみれば。ここは自分の娘を信じるしかないのか。く…親になるって大変だ…
「あーーーー!こんなんだったら監督の保護者だったり横断歩道の案内のボランティアに立候補するべきだったーーーーやりたい!さあやちゃんの通学路を守るおじさんになりたい!」
 っとか叫びながら離れゆくさあやちゃんの背中を名残惜しく見ていると、その脇に…
「…ん、何だ、あのコート着た怪しい人…」
 電柱の影に隠れて顔はマスクとサングラスで覆っていて分からない。漫画やアニメに出てきそうな典型的な不審者すぎて逆に怪しくないように見えた。
 …あそこまでコテコテの変装。世間知らずさが丸見えなあの雰囲気から察するに、あの不審者さん、もしかして。
 さあやちゃんを守る意味でも、僕はすたこらとその不審者の元へと歩いていって声をかける。
「…れいらさんだね。そんなところで何してるの。仕事は?」
「ひょ!!!修司さん!!!何でバレたの!!!」
 びく!!!っと反応して女優の仮面を取った彼女の声がする。いやむしろバレてないつもりでいたのか…
「撮影の合間を縫ってなんとか…今日さあやちゃんの初めての学校登校でしょ…何とかこの目に焼き付けておきたくて…」
「…自分の自宅付近で不審者ムーブしないでよ…今は普通のお母さんとして見送ってもいいんじゃない?」
「だめよ!さあやちゃんにはまだ厳しいお母さんを演じるつもりなの!これもあの子が女優の娘だからって学校でいじめられないようにするための彼女を守る手段なんだから!」
「…っとは言いつつ今まさにさあやちゃんの平和な学校生活を脅かそうにしている不審者にしか見えないよ、れいらさん…」
 …まあこれも彼女らしいやり方と言えばそうなのかもしれない。せめて僕がカバーしてあげないと…
「…でも普通にマスコミもいるかもしれないし、私の正体もバレないようにしないと」
「…だったら普通の変装をしなさい。今の君じゃ悪目立ちしすぎてる」
「うう、こんなことだったら逆に集団登校に同行する保護者に立候補した方が良かったかもね。それか横断歩道で旗持ってる人」
「う…」
 この同じ発想に至ってしまうあたり、似た者同士なんだなって思ってしまう。
「…でもさあやちゃん、大丈夫そうね」
「…うん、ああ見えてサバイバル能力高い子だし、学校でもちゃんとするんじゃないかな」
「…それだけじゃなくって、ちゃーんと私みたいな不器用な不審者を退治してくれるお父さんがいつも見守ってくれてるってことも分かったしね。いつもさあやちゃんを守ってくれてありがとう、修司さん。これからも一緒に彼女を守っていきましょ、お父さん」
「………」
 僕がれいらさんと婚約するにあたって、反対する本家の人達の言葉がいつまでも心に残っている。残さねばとは自分でも思っているからあえてことあるごとに反芻している。

 お前なんかみたいな人間が!
 父親になれる訳ないだろ!

 …それと同時に、さあやちゃんを授かった時に悩んでいた僕を叱咤してくれた、産婦人科の先生の言葉もセットで思い出す。

 この子と母親の為に、父親になろうと、変わりたいって思った時から
 あなたはもう、父親になっているんです。
 子供が産まれてきてくれるってことは新しい命が誕生するだけじゃなくて、周りの人間が迎えるために変わろうとした瞬間から
 もうお子さんはあなたの心の中で誕生しているようなものですよ、お父さん。

 そして今、さあやちゃんとれいらさんが僕に言ってくれた『お父さん』って言葉を改めて聞いた時に。

「あ、修司さん」

 見た目は不審者だけど、スッっと差し出してくれたハンカチを出す仕草は、何やかんや育ちのいいお嬢様のれいらさんだった。

「さあやちゃんが小学校に入学してくれたの、そんなに嬉しいのね。ふふ、これ中学高校になってもおんなじように泣いちゃいそうね。困ったお父さん」
「…変な格好してる君に言われてもなあ…」
 …せめて中学の入学式はこんなことにならないよう、もっと立派なお父さんになろうと思った四月だった。
 いってらっしゃい、さあやちゃん。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ