プリキュア創作6

□香久矢家の味
1ページ/2ページ

「はああああやっと帰ってこれましたー」

 どさー、っとベッドに倒れ込んでこのまま寝てしまいたいところだけどそうもいかない。お化粧を落としてお風呂に入って明日の会議の資料の準備をしてそのまた次の会議の準備をして一日のノルマで進めている資格の勉強にひかるへの連絡・・・あ、確か桜子さんから同窓会のお手紙が来てましたね。お断りのお返事をそろそろ書いておかないと。それでいて明日の予定的には朝五時には家を出ないといけないので睡眠時間を計算して・・・ってうう、もう・・・もう計算したくないのに、家の中ではせめて仕事のことは考えたくないのに・・・

 ぐううううう。

 っと色んなことを考えていたけどそれを中断させるがごとくおなかがなった。

「・・・とりあえず何か食べますか。あ・・・お弁当、コンビニで買ってくれば良かったですね」

 いつするか分からない花嫁修業を一応実家でさせてもらっていたけど、してたのは一人暮らしを初めてものの数年くらいで、今みたいにある程度責任ある仕事を任されてからはもっぱらコンビニ弁当ばかりになりましたね。
 ・・・私が中学くらいの頃はコンビニ弁当ばかり食べてたら身体に毒なんて意見もありましたけど、2034年の時代ともなればコンビニ弁当もより進化して美味しいし、栄養のバランスもよくって自炊するよかずっと贅沢な食事が出来るんですよね。
 ・・・幸いにしてお金なら沢山ありますし。
 ・・・それに自炊している時間がない。
 お金よりもよっぽど、時間の方が今はほしい。今この状態だって本当なら何も考えないで寝る時間もほしいくらいですもの。
 ・・・にしても国会で国民の生活を想像しながら税金や予算の還元なんて話を会議こそしてますけど、私自身こんな仕事場と家を行ったり来たりしている生活をしているからより分かる。
 自炊は時間に余裕のある人達の特権だ。ギリギリの生活をしている人達にとって、コンビニ弁当というのは時間をお金で買っているようなものである。
 ・・・なおかつ私はまだ恵まれている方だからいいんですけど、中には本当にお金もギリギリで生活している人達もいるだろうし、結婚や恋愛や子育てと両立しているすごい人達もこの世の中には沢山いるんだろう。
 ・・・私なんか、自分のことで手一杯だってのに、恋愛とかできるんでしょうか。
 ・・・えれなは薄情なことに海外で現地妻を沢山作り続けてっていうみたいですけど・・・うらやましいですね・・・ってこれまではそういうお仕事だって我慢はしてましたけど
 ・・・えれなは昔っから家事を家族の為にずっとしてたし、家のことで割く時間を最小に抑えることができるから他にも気を回せる時間を生めることのできる子なんだろう。今の私なら改めて、あの子のすごさが分かる気がしますね。そりゃモテますよ。
 ・・・そうだ結婚と言えばお父様またお見合い写真送ってきてましたよね。また断っておかないと。
 はあーーーーーーーあ、こんな自分の仕事でいっぱいいっぱいの私が結婚なんて、出来る訳ないじゃいですかあの人も自分の娘を見る目がないっていうか信じすぎてるって言うか。
 ・・・私はあなたみたいに、何でもできる人じゃないんですよ。残念ながら。
 ・・・そりゃ香久矢家を出る時は私もいろいろ啖呵を切ってビックマウスなことはいってしまったかもしれませんけど、いつかこんなギリギリの生活をするって見透かされていたから反対もされていたし、今も心配してお見合い写真とか送ってきたり妙に私の部署にちょっかいかけにきてるんでしょうね、あの人。
 家から出る時の一人暮らし修行の時も、うざいくらいに絡んできてましたし、今にして思えばあのお節介もお父様の愛情表現だったんでしょうか。
 ・・・まったく、中学三年生の時のひかるの二年三組にしたことと言い、いちいち回りくどいんですから、あの人のすることと言えば。

 ・・・中学の時、かあ。

 私は14年くらい前の自分の食生活を思い出す。今でこそコンビニ弁当生活を続けてはいますけど、あの頃は家に帰ればお料理を作ってくれるメイドさん達。学校に行く前にお弁当を用意してくれたシェフとかいてくれましたけど、あの人達もすごかったんですよね。
 ・・・また、香久矢家のあの料理の味を食べてみたい。
 ・・・中学の時の戦いで得た私達の未来、何でこんなんになっちゃったんだろう・・・

 つー、っと私のほおを伝ってくる水滴なようなものを感じる。のどもからからなのに、どこからこの水は来たんでしょうか。
 ・・・っていうか

「って駄目です!私がこんな後ろ向きになってどうするんですか!今一番頑張ってるのはひかるのはずです!最近成績も悪くなっているし来年のロケット発射計画も予定より遅れてる!法整備は私達が何とかするからひかるはララと会うたことだけに集中して!って言ってあげるべきなのに!私がこんなんでどうするんですか!蛇遣い座のプリンセスに笑われてしまいます!」
「そうだぞ、まどか。香久矢家の者は代々市民の為に身を粉にして尽力してきた指導者だ。これくらいのことでへこたれるな。とりあえず何か口の中にものを入れろ。それだけでも体力の持ちが違う」
「・・・って」

 何とかむりやりベッドから立ち上がったらそこには。
 エプロンを装備したお父様・・・現総理の香久矢総理が私の部屋にいました。

「不法侵入者!訴えますよ!」
「何度も連絡したしインターフォンも押したぞ!お前がベッドの上で死んでるから全然気づかなかっただけだぞ!まどか!!!」
 ・・・いやそれにしても勝手に入ってくるとかなくないですか?親とは言え。
「・・・しかしながら親とは言え勝手に入るのはまずいと私も思ったのだが」
 ・・・ってなんやかんや思考回路が一致してるの、悔しいですけど親子ですね。そして・・・
「そして入ってみたら案の定お前、死にかけてるじゃないか。最近宇宙開発局に仕事ふりっぱなしだから、そろそろ限界きてるころだと思ってきてみればこれだ。本当に死ぬぞ、お前」
 ・・・こんな状況になってるのも、総理・・・親には全部お見通しってことでしょうか。
「・・・っていうか私もこのあと秒単位で予定決まってるし、時間かける訳にもいかないから自分の娘の家ならまあいっかなって入ってきちゃった。っていうか鍵はさすがに閉めた方がいいぞ」
「・・・どの口が言いますか・・・」
 ・・・っていうか総理の仕事こそまったく時間がないってのに何やってるんですかね、この人。こんなんだから支持率どんどん下がってるんですよ。
「・・・私なんかにかまっている暇あるなら、国民のために動いてください、総理」
「ああ、そのために部下のケアは大事だからな。俺は無能な総理だ。部下に助けてもらわないと何もできない」
 ・・・だったら私が、この人の手を煩わせないくらい立派な政治家になるしかない、って叱咤でもあるんでしょうけど。
「・・・俺だって本当ならお前のポジションの仕事をしたかったよ。誰が好き好んでこんなサンドバックみたいな役割やりたがるか・・・いいか、お前の仕事は星奈君や観星中学二年三組だけの願いを乗せているんじゃない。俺の夢と贖罪もつまっているんだ。こんなことでくじけるな、まどか」
 そう言ってお父様はコト・・・っとあるものを机の上に置いて去ろうとする。
「・・・とりあえず今冷蔵庫の中に入っていたものだけで作ったありあわせの野菜炒めと卵焼きだ。炭水化物もとるんだぞ。じゃ」
 そう言って何ごともなかったように家から出て行くお父様。はあ、結局何だったんでしょかあの人は。
「・・・まあいいでしょう。とりあえず今は甘えて食べてみましょう・・・ぱく・・・」
 ・・・あ、この味。
 ・・・中学の頃に学校で食べた卵焼きの味に、似てますね。
「・・・香久矢家の味・・・」
 いつの間にかまた、頬から水分が机の上に落ちていく。まだ水分補給は出来てないはずなのに。
 ・・・香久矢家の料理はみんな、シェフが作っているものばかりだと思ってたのに。
「・・・ほんと、愛情表現が遠回しなんですから、あの人は」
 ・・・そう言えばおじいさまに聞くところによるとあの人も若い頃は家の反対を押し切って一人暮らしをしていた時期もあったって言ってたでしょうか。
 ・・・そこらへんも含めて、嫌だ嫌だといいつつ、嫌なところこそ親子って似てしまうかもしれませんね。
 ・・・私もこの卵焼きの味、再現できるようになりたいですね。香久矢家の卵焼き。

「そうだ、言い忘れてたけどお見合い写真見てくれたか?ずぼらなお前のめんどうをよく見てくれる相手を吟味したつもりなんだが」
 って帰ったと思ったらそれだけを言いにまた家にずかずか入ってきたお父様。今度はインターフォンも鳴らさずに・・・

「仕事しろ!総理!」
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ