プリキュア創作7

□ほまパパのリハビリ
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「はあ…単純にこの年になってリハビリは身体に堪えるな…」

 ひょんなことから不死の病だったはずの俺がアスパワワって不思議な力の効果で一命を取り留めたところはいいものの、その治療の希少さから『アスパワワ療法』なる怪しい治療法のモルモットみたいな扱いにされてしまった。いや、何だか悪い風に言ってはいるが俺の担当医の人はかなりの人望があるみたいな人で、医師としてだけではなく中学生の時から慈善活動をして世界を救ったとかなんとかのすごい女性だったみたいだ。
 …なら余計にタバコと酒と不摂生で勝手に身体をぶっ壊したおじさんがそんの人のお世話になってはいけないとは思うのだけれど
「…まあそう思うなら勝手に身体をさっさと治してあの先生から離れないとな…今は医師って名目で付き合ってはいるが、そのうち義理の娘になるからとか言いかねんからな…」
 何度も言っているが、先生と結婚しようとしている子と俺は確かに血は繋がっているかもしれないがもうとっくの昔に縁は切れいるので医師と患者以上の関係はいくらろくでもない大人の自覚のある俺でも健康的ではないと思う。
 っていうか俺の身体が健康になったとしても、心が健康にならんわ。
 あの子と一緒にいるのは、俺の心が、辛い。

「…じゃあとりあえず身体を治すしかないようなー…はあ、この無限ループ」

 っと渋々と俺は今日もリハビリ施設へと足を運ぶ。今日は一人で黙々とやるコースで更に他の患者もいない日だろうからのびのびできるぞー
 って思っていたんだが

「…誰だ、あいつ」

 どうやら先客がいたようだ。けれど患者って訳じゃなさそうだな、健康的だし。家族の見舞いか?それにしてもここにいる理由はないだろ、さっさと病室に行ってやれっての。
 …それに

「…めっちゃ美人だな」
「ん、あなたは」

 っていかんいかん、俺のまた嫌な癖が出てきたぞ。ほんと誰でも彼でも余計なこという癖のせいで人生台無しにしてきただろ!そろそろそういうとこも学習して心のケアもしろよな…ったく。
 …っていうか今の声、てっきり見た目は女性だと思ったんだが声は男か、よく見るとけっこうがたいがいいんだが文字通り中性的な雰囲気のある彼だった。
 …いかん、じろじろ見てしまう。っていうか今日は俺がそこ使う日なんだから、俺がたじたじする必要もないんだけどな。
 あれか、家族がそろそろここに入院するとかでここの見学にでもきたのかな。え、だとしたら俺がトレーニング器具とか使ってるとこ参考にしたいよな。うひー!どうしよう!こんな美人に見つめられてると緊張しちゃう!男だけど!変な魅力あるよな!

「…あなた、もしかして!」
「は!はい!」

 あれ、おかしい。俺の予想に反してこのべっぴんさんはリハビリ施設への興味から完全に『俺への興味』に移行して視線を固定してきたぞ。え?何で?どうして?いやだ!ドキドキする!もう恋なんてしないと思ってたのに!
 つかつかと、歩く姿勢も見惚れするほど綺麗な彼は、俺の近くまで優雅に近づいてくる。そして

「あなたもしかして、ほまれの実父ですか?」
「…は?」

 俺が一番言われたくない言葉を、その綺麗な口から吐き出してくる。

「…あんた、何なんだ。俺のことそんなに知ってて…」

 この事実を知っているのは俺の担当医とちとせと他の輝木家だけのはずだ。ほまれにだって知られてない。知られてないのが俺のろくでもない人生の中で言える数少ない美点だったはずなのに、何故ぽっと出の妖精さんみたいなこいつが知っているというのだ。まさかちとせか担当医が言ったのか、そんなことする連中には見えなかったのだが。
 それともこの彼、もしかして…

「…ってさすがに覚えている訳ないですよね。混乱させてしまってすみませんでした。僕の名前は愛崎アンリ。ほまれ…輝木ほまれさんとは幼少期にスケートリンクで競い合っていた仲です。その時ちらっと、まだ一緒に暮らしていたというあなたとはリンクで会ったことあるかもしれませんね。会話はほとんどしてないと思いますが」
 …そっか、あのころ位の時代に会ったことがあって、一方的に向こうが覚えていたというパターンか。そういう身バレのルートも…まああるにはあるか。
「…よくそんな昔のこと覚えてるな。君だって小さかったはずだろうに、俺も当時から見た目ががっつり変わっているだろ。その時から親御さんの付き合いは避けてた…っていうかちとせが勝手にやってくれてて俺は置物だったつもりなんだがな」
「いやー、それでも親しい友人の親は覚えてしまうものですよ」
 …そうか?俺がガキの頃はどうでも良かったんだがな。そこらへんはジェネレーションギャップなのだろうか。
「当時はほまれのこと、好きでいつか結婚とかするのかなあ、って年相応の妄想とかしてましたからね。義理の父親になる人の雰囲気は覚えてしまうものですよ」
「いや!子供の頃からそこまでの妄想はしないよ!それは多分!やりすぎ!」
 ジェネレーションギャップっていうかこのアンリ君が結構ぶっ飛んでいる人だって思えてきたぞ。っていうかほまれのスケート仲間だとしたらプロの世界で生きてるんだからそりゃ感性もぶっ飛んでなきゃやってられないのかな。
 …う、いかん。俺も辞めればいいのにそう言えば中学生くらいのほまれの大会にこっそり見に行った時に派手な男子のスケート選手、そう言えばいたなって記憶を思い出してきたぞ。そうそう、当時女子フィギュアで大活躍していたほまれと併走するように、男子でも活躍していた…

「若宮、アンリ」
「わお!名前出てくれたんですね。いやー、僕も心の健康上あんまりよくなかったんですよ。自分で言うのも何ですけど結構頑張ったのに名前覚えてもらってないっていうのはちょっと悲しかったです」
「…あれ、でも」
 名前は合ってるけど、確かさっき名乗った名字って
「ああ、あと遅ればせながら、入籍して名字は変わりました。これ結婚指輪」
「高そう」
「ふふ、一番高い奴選んでもらいました。まあ値段じゃないんですけどね」
 っとノロケ話に勤しむアンリ君。これを見てるとそれこそ心の健康を害しそうなのだが
「…ほまれと結婚する、って妄想していた割には、ちゃんと別の相手に巡り会えたんだな」
「…ええ、まあそこは大人なので、それに」
 彼は窓の外の青い空を見つめる。そうそう、俺もあの人を想像する時はつい空を見つめてしまうとこ、あるんだよな。
「…ほまれを任せてもいい人ができたんです。今はその人に任せてるかな」
 …もしかしなくても、これは俺の担当医のことなんだろうな。そこの話を広げるとめんどくさくなりそうだから黙っておくとしよう。
「…っていうかこれからリハビリですよね、邪魔してすみませんでした。つい懐かしくって、そろそろおいとましますね」
「…俺の素性のことはほまれには言わないでくれよ。っていうかその頃からのほまれとの知り合いならそのあと何が起きたのか何となく知ってるだろ。それでよく俺と話をしてみようと思ったな」
 若宮アンリ…いや愛崎アンリ。やっぱりこいつもこいつでちょっと変なことろあるんだな。
 はーーーー!薬師寺先生の知り合い!やべー連中ばっか!!!早く退院したい!リハビリがんばろ!
「いやまああなたのことを思うと軽率に話しかけるのはよくなかったかな、って後悔の念は沸いてきますよ。僕の今日ここにきた本来の目的は原風景を改めて思い出すためです。これを持っているとモチベーション維持に繋がるんですよね」
「原風景…?」
 子供の頃の原初の記憶や、帰ってくる場所のイメージみたいなものか。ここが?
「…ここは僕が長年リハビリでもお世話になっていた場所なんですよね。ここで辛い思いも沢山したけど、愛される者に支えられる喜びも共に歩んでいく楽しさも知った場所です」
 …まさか薬師寺先生、それを知っていていつか俺と彼がばったり出会ってしまうことも期待してこのリハビリ施設を選んだとかじゃないだろうな…だとしたら相変わらず性格が悪すぎる…単に優秀な病院って可能性もあるけど。
「そこで今度はあなたが新しい一歩を踏み出すための場所に選んでくれたのは、嬉しいですね」
「ふん…選んだのは俺じゃない」
「…そっか、薬師寺さんか…ふふ、彼女らしいね」
「あ!やっぱり知り合いだった!」
 ひー!もうやだやだ!この人と会話したくない!どんどんボロが出てきそう。
「…君も長期のリハビリ経験者なら、これ以上治療の邪魔はしないでほしいな」
「…ええ、原風景の確認以上に面白いものを見れましたから。そろそろ退散するとします」
「…くれぐれも、だけど」
「…分かってますよ。僕もそこまで人の心が分からないわけじゃないです。ただ」
「…ただ」
「ほまれはたまに話してくれますね、記憶にはほとんどないけど、いつの間にか別れてしまったあなたに私は元気だよって示すためにも滑っているかもしれないって。あなたもそのリハビリがいつか誰かの元気に繋がる応援になるかもしれない。それをモチベーションにして頑張ってほしいですね。フレフレ」
「…け」
 だからほまれと俺はもう縁はないっつーの。
 …でも
「…確かに怪我から復帰したほまれの演技は、更に磨きがかかってた気がするな」
「…それだけ辛い思いから立ち直った者の演技は、みんなを応援してくれますよ。少なくとも僕は今日のあなたを見て嬉しかった。当時のあなたと、全然違っていて」
「…そりゃこれだけ年を重ねればな」
「…年や見た目だけじゃない」

 心の持ち方
 …か。

「…俺本人としてはまったく変わってないつもりでいるんだが」
「まあこういうのは客観視が大切ですね。そろそろ本当に邪魔になると思いますから去ります。では」

 …変われたのかな、俺。
 当時はいつかほまれにまで暴力を振るってしまうのかって怖くてあの環境から逃げてしまったけど。
 今の俺なら、怪我も心も治した俺なら。
 縁がなくても、あの子に。

「…ん」

 ふと部屋の外に視線をやると、俺とアンリ君のこれまでの会話を見てましたよ、っとニヤニヤしていた薬師寺先生の姿を発見してしまった。

「やっぱり狙ってたんか!あの人!」

 …やれやれ、確かにこの抜け目なさ。
 俺も彼みたいにほまれを託したくなってしまう気持ち、分かってしまうのかもしれない。
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