プリキュア創作7

□ローラの次に話すなら
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 …今まで誰にも話したことなかった私がテニス部を辞めた理由を、いよいよローラに話してしまった。別に隠していた訳ではないんだけど言いづらかったというか、言ってしまったら自分が弱くなるようでずっとタイミングを見失っていたと思う。それでも少し楽になってしまったと同時に、後から振り返ってみたらいくら何でも一番最初に話すのはローラじゃなくね?って気持ちがじわじわ沸いてきた。
 こう、ローラとしては旅先で二人っきりのシチュエーションだったから旅の恥はかき捨ての感覚で私を心配しての気持ちが半分、興味本位が半分だったんだろうけど(そもそも旅してるのは私だっての)、そんなローラよりも先に筋を通す相手はいるとは思う。
 私の部活動をずっと生活面でも金銭面でもサポートしてくれたり、何だったら晴れるために祈祷なんかしてくれていた人こそ私が急に説明もなしに部活を辞めましたってなったらそれは私が恩知らずで無責任だって話だ。
 …父さんにちゃんと話そう。別に百合子と仲直りしたいとか、あの時の私は悪くなかったと自己満足するわけでもなく。
 単にこれまで心配してくれた人にちゃんと向き合いたいと思った。

「…そうか、そんなことがあったんだな」
「…うん、今まで黙っててごめんなさい、父さん。これまで沢山お世話になったのに」

 私も修学旅行から帰ってきて早々言うことじゃないとは思うけど、父さんはいつもみたいに静かに聞いてくれた。そう、意外と感情読めない人なんだよね。だからちょっと甘えていたところはあるかもしれない。父さんなら話さなくても分かってくれる、私の触れて欲しくないところに勝手に入ってこないかもしれない。
 …それは良い父親かもしれないけど、私は駄目な子供だ。もう中学生なんだし、しっかりお世話になった人には説明を果たせる人間に成長していかないと。

「…そっか、今まで辛かったな」
「…父さんはその…もう終わった話だから率直な意見を聞きたいんだけど、自分だったらどうすると思う?」
「…さあな。その場になってみないと分からないな。今まで努力してきたことをそんなことで無下にされる場面を目の当たりにした人間にしか分からない感情だろうよ。そりゃ後から意見を言うなら手を出した方が悪くなってはしまうがな。自分が悪くない状況だとしたら10:0で勝つようにしないと駄目なんだよ。手を出した時点でお前も乱暴を降るってきた連中と同じところに落ちたことになる」
「…そう、だよね」
「ああ、でもお前を責めたいとかじゃないぞ。ほんと、その場に俺も立ってたらついカッとなってたかもしれないし…」
「いいよ、私にも非はあった。今はそれを認めてるよ」
 …これも当時の私じゃ話せなかったことだろうし、今は一度気持ちを吐き出す相手になってくれたローラには感謝だな。
「…でも人間には心があるからな。善悪って価値基準を脳で判断する前に、心がある。中学生の段階で正しい判断をしろってのは酷だよ」
「…心、か」
 それを守る守らないの話をするなら…
「今はもう、私の心は大丈夫かな」
「時間が経った、っていうより俺以外の誰かに話せる相手が出来たんだな」
「…って父さんにこれを話す前に、誰かに相談してたってことはバレちゃったか」
「…まあな、ちょっと話し慣れてる感じもしたし、それにそれこそ父さんだったら一度親に話す前に信頼できる人に気持ちの整理を頼むかな。何か親に言ったらほら…あれじゃん。子供の世界なのに介入したくはないけどここまでくるとしなきゃいけないみたいな話になっちゃうじゃん」
 …ってそれは親らしくない台詞ではあるけど。
「…当時話したら、父さんが直談判とかに来たのかな」
「そりゃ親だから行くよ。いくら周りが騒ぎ立てたくないってムードになっても、それでも行くのが親だ」
 …やっぱり、私のこの頑固なところはお父さん譲りなのかもしれないね。
「今日の話、俺としてはショックではあったけど、あすかにはもう一度話せる相手がいてくれたことが嬉しかったかな。この間のトロピカる部ってところの子達か?」
「…うん、あんな連中だけど、まあ居心地はいいんだよ」
「…そっか、今度は大切にしてやれよな」
「…うん」
 父さんは今の私のことを気にかけてはくれるけど、本当は気づいてるのかもしれないな。
 小学校の頃から仲が良かった百合子は、そういう相談を出来る相手にはなれなかった。父さんと百合子も、当時それなりに会話してたし、百合子があの大会でどういう立場にいたのかなんとなく感づいているのかもしれない。
「…でも父さんと話せてもっと自分の気持ちの整理がついたのかもしれない。ありがとう、父さん。そして今まで心配かけてごめんなさい」
「…いいよ、一番辛かったのはあすかだろうし、その次は部活のメンバーだろうし俺のことは気にしなくていいよ。あー!でもこう言っちゃなんだけど平和な時代になったとは言えお前の世代も大変だよなー!父さんの時代とあんまかわんねーじゃん。やはり歴史は繰り返すものか…」
「え、父さんが学生時代の頃も似たようなことあったの?」
 …って考えてみたら昔の方がそういう不正、激しそうな感じするよな。まあ言ってしまえば部活って社会の縮図だし、父さんも社会人生活してたらあんな不条理なこと、いっぱい経験してるからこそ『暴行を加えたら加害者と同じ』って意見が出てくるのかもしれないな。
「あったあった。そりゃもうやんちゃする部員ばっかでさー!俺は当時部長だったんだけど部をまとめるのが先決か部員の心を守るのが優先かそりゃ悩んだものよ…」
「…って父さん」
 部長だったんだ。そして百合子と同じポジション…複雑。
「んでやっぱりお前は母さんの子だな。だいたい同じことしてる」
「…母さん」
 そして私が母さんか。
 …ってんん?だとしたら
 父さんと母さんって私と百合子みたいな関係から結婚まで行ったってこと?うっそーん。
「ああああああ!何か気持ちのもやもやを晴らしたら走りたくなってきた!ちょっとジョギングしてくる!」
「いってらー…ふふ、こういうところも母さんそっくりだな」
 
 …私のことを話していたつもりが、いつの間にか家族のルーツみたいなのを知れてしまった。これも今だから出来ることを言えたおかげ、なのかもしれないな。
 ありがとう、父さん、母さん、トロピカる部。
 いつか百合子とこんな風に向き合える日も、来るのだろうか。
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