プリキュア創作9

□ほまパパのリハビリ3
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「えっと、今日のトレーニングルームはここか…」

 最近元娘のほまれの知り合いの愛崎正人さんをトレーナーにしてのリハビリの機会が増えてきた。最初の方は少しでもほまれとの接点が増えることを警戒していたのだが、愛崎正人さんは俺の事情をよく知っている人みたいなので深追いしてこないで安心できる。
 …けど若宮アンリ選手とだけは、さすがにまだ顔なじみではあるので当時のことを思い出してしまいそうで心配ではあるよな。愛崎正人さんも正確に言うなら若宮アンリのパートナーらしいのでかなりほまれに近い人物で警戒しないといけないはずではあるが、まあ本人たちが配慮してくれているのでギリギリ許容範囲の人間関係なのかもしれない。
 愛崎正人さん自身はものすごく優秀なリハビリトレーナーなので俺も自分自身の人生をやり直すためにこの機会から逃げずにしっかり人生をやり直すのに向き合っていきたいと思う。

「あ!ちょ、ダメだ!○○さん!その部屋じゃない!」
「え?」

 とか何とか思ってるとどうやら俺は入る部屋を間違えたみたいだ。少しまともな人間になりかけたと思ったらいつもこうだ。結局自分が異常側の人間だということを忘れてブレーキを緩めた瞬間にいつも人生を壊してしまうようなトラブルに見舞われてしまう。
 どうやらまたその繰り返しのようだった。俺は変わらない、変われない。
 何故かその場にいた若宮アンリに静止されながらも、俺が間違った部屋に入ると、そこには…

「あれ…あなたは…」
「ほ…ほまれ…選手」

 目を疑う光景があった。もう、二度と会うことがないと思っていたほまれが目の前に。何度も逃げて、俺は自分のことを許せないから会う資格もこれからも一生ないと思っていたほまれと、事故とは言えいよいよ出会ってしまった。
 後ろの方から小声で『こんな事故が起きる可能性があるならもっと警告するべきだった…僕のミスだ…』と後悔の念を唱える若宮アンリ選手の声が聞こえる。どうやら本当にドッキリとかの悪意で俺とほまれを会わせる意図はなかったようだ。それもそうだろう、若宮アンリ選手は俺達元家族の事情を知っているだろうし、薬師寺先生にもお世話になった話は聞いていたので彼女の息もかかっているだろう。
 俺とほまれが出会うことのタブーそのものは重々承知のはずだ。今日は本当にたまたまほまれがこの病院にきて、俺がたまたまトレーニングルームを間違ってしまったという最悪の奇跡が重なってしまったんだろう。
 俺の人生は本当に、こんな悪夢ばかり起きて本当に嫌になる。

「…す、すみません…部屋を間違えました」

 っと今更ながら現実を取り繕うと俺は部屋を去ろうとする。でも確かさっきつい言葉が出てしまって『ほまれ選手』なんて言ってしまった気がする。俺は何を口走ってしまったんだろうか、状況を悪化させる言葉も言ってしまった癖にその後に誤魔化す動きをするなんて、本当に俺の人生を濃縮したような愚かな動きをしていてより自分が嫌になってくる。でもお願いだ、こんな不格好な誤魔化しだけど、まだ引き返せるなら引き返らせてくれ。
 こんな俺を、今キラキラ輝いているほまれに見せる訳にはいかない。確実に彼女の人生を邪魔してしまう。それをしないことだけが、俺の残りの人生唯一のやるべきことだったのに、それを失わさせないでくれ…お願いだ。また死にたくなってくる。

「…ハリー…?」
「…は?」

 っととっと逃げればいいものの、ほまれから意外な言葉が飛んできてしまってフリーズしてしまう。
 え、今なんて言った?さすがにもう顔は覚えてないとは思うけど、血の繋がりや幼少期の記憶がフラッシュバックして最悪実の実父であることがバレてしまうと予想はしていたのだが。
 少ない俺の脳みそでシチュエーションした例の中には全くない言葉だった。
 ハリー、針?元我が娘ながら、何言ってるんだこの子は。

「ああ、ごめんなさい。私こそ人違いしちゃいましたね。そんな、ハリーがこの時代にいる訳ないのに、私、何言ってるんだろ。年齢も言葉遣いも全然違うのに。やっぱりまだ少し未練があるのかな。やだな、それ全部払拭したつもりだったけど、やっぱり初恋だったから覚えているのかな。私が私になれた青春だったもんね…こんなこと言ったら今の彼女のさあやに怒られちゃうもんね…ってごめんなさい。初対面の人にこんなことべらべらと」
「…良かった」
「え?」
「あなたの中に、もう俺はいないんですね」
「…ん?」

 状況が全く読めないが、俺が想定していた最悪のケースじゃなくて、最高のケースになっていたみたいだ。
 そのハリーって名前の人物が誰かは全く分からないが、どうやらほまれは俺に似たその人を初恋で好きになって、そして今は忘れて幸せに薬師寺先生との恋人関係を続けているみたいだった。
 ほまれの中で、俺もそのハリーって人も、過去になって幸せになっているんだ。
 こんなに嬉しいことはない。

「…や、やあほまれ。ちょっと相談したいことあるんだけど、いいかな?」
「あれ、アンリもこの病院来てたんだ。ってそうか、元々アンリが長く入院してた病院だもんね」

 っと送ればがらも若宮アンリ選手も援護にきてくれた。ほまれと適当な会話をしつつ、ほまれには見えない死角からハンドサインで俺に『行け』というメッセージを出してくる。

 一時は俺は死ぬことを覚悟する展開になると思ったが、今は満たされているのでしっかりとした足取りで本来のトレーニングルームに進む。
 そうだ、俺ももう自分の人生を歩んでいい。ほまれとは違う、もう交わることはこれからの人生二度とないことを知れた。
 俺は俺、ほまれはほまれの人生を歩んでもいいんだ。これまでずっと胸の奥にあった最悪の被害妄想の世界のシチュエーションが一つ消えたので、俺の足はリハビリをしてないのに軽い。

「…でもそれはそれとして、ハリーって人、どんな人なんだろう」

 今度薬師寺先生に会ったら聞いてみよう。俺よりかっこいいやつなのかな。気になる。
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