プリキュア創作9

□小春日和プリキュア:another
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「…もしこれが事実だとしたら…ヒーリングガーデンとは…ビョーゲンズとは…」
「…気が付いたようだね、我修院博士」
「は!お前は!」

 カグヤとエゴエゴしか知らないこの研究室に知らない男が侵入していた。一瞬パニックになりそうだったが頭の中に残っていた記憶のピースを組み合わせてこの男の正体を探る

 今私はこの地球の未来を決定するシステムのようなものを発見してしまったかもしれない。未来、時間、ifの世界が変化した。
 だとするなら小春とひよりが前に違う世界に行った時に出会った人物と関係しているのではないか?彼女達の話を聞いていた中で神やら精霊やら人魚やら色々出てきたが、一つ腑に落ちない存在がいた。確かどこからともなく都合よく表れたおじさんがいた気がする。

「…お前が、ジョージ・クライだな」
「ほう、驚きの頭の回転率の速さだね。この数秒で僕の存在の可能性にたどりつくとは。さすが未来を変える可能性に気づきた君なだけあるよ」
 …さしずめこの男は歴史の分岐点に現れるゲームで言うところのフラグ管理者ということだろうか。この男の目的は私の排除だとか、未来の行き先を決定するとかそういう大それたものではなく…
「傍観しにきたのか、いい趣味してるよな、ほんと」
「…ああ、今の僕にはもう歴史に参加する権限がない。資格もない。ただ愛する者が幸せに暮らせる未来に分岐した時に、その功労者に軽く挨拶できる程度だよ。ありがとう、我修院博士、君が研究する内容は今後の人類の存続を左右させるものだ」
「…それは嬉しい…って言いたいところだけど、私も研究者だ。ネタバレされると興味を失う」
「う…トラウム教授だったら喜びそうなんだけどな…」
「何でも自分の価値観や知人の反応を基準のものさしに使うんじゃないよ。私は私だ」
 …って自分も偉そうなことは言えないがな。よくカグヤに怒られている自分の良くない部分を他人の中に見つけてイラついてしまった、良くない癇癪だったな。
「ふう、やはり本物の親には勝てないな」
「社交辞令はもういい。あと私の予想だとこの後お前みたいな歴史の野次馬じゃなくて本格的にヒーリングガーデンの精霊たちに命を狙われないか心配なんだがな。ならべく私もプリキュアが大切にしている存在とは敵対したくはない。サルローさんともこれからは仲良くしたいし…そこらへんどうなんだ、ジョージ・クライ」
「えっと…さあ、多分大丈夫じゃないかな…っていうか自分もヒーリングガーデンの事情を全て知ってる訳じゃないし」
 かー―――!つかえねー―――!じゃあなんだ、今あんたが私の元に現れたのはさしずめ好きなプリキュアが長生きできる未来が確定したからつい嬉しくてゲリラ的に出てきちゃったってことか?私は感情的に動く男と話すのは苦手なんだがな。一見クールに見えてこのジョージ・クライ。理論よりも心で動くタイプだな。
 あー、思い出してきたぞ、この男そういう男だったな。
「んじゃあもういいや。せめて第三者の感想を聞かせてくれよ。君はどう思うかね、ジョージ・クライ君。ビョーゲンズが実は地球によって故意的に生まれた必要悪だった可能性があることを」
「…僕も神の掌の上で踊らされてマザーの望むままの悪を演じてきた男だからね。立場上ビョーゲンズと同じと言えよう」
「プリキュアと戦わせて、より強い方を地球の守護者にする蟲毒だったってことだね。どこもやってることは同じか」
 カグヤの命を助ける為に私は何でも研究してきたつもりだ。命の花、夢アール、ビョーゲンズ。そしてヒーリングアニマルとビョーゲンズは実は共通点が多いことを知る。人間を素体にして融合することで力が倍増、地球のエレメントに干渉してエネルギーを生み出せる存在。
 彼らの力をどちらも似たような応用すれば、人間は無限に近い命を得ることが出来るだろう。
「ビョーゲンズと人間は紙一重なんて、サルローさんは言っていたが。本当はヒーリングアニマルとビョーゲンズが同じ存在だったとはな。数百年に一度、人間社会にもインフルエンザやコロナのような病原菌が流行して抗体を得て強くなっていくように、地球にもあえて必要悪を作ることで地球の免疫力をマッチポンプで強化する時期がある。それでヒーリングアニマルが強くなればよし、ビョーゲンズが勝って次の地球の守護者に変わるのもよし。全ては地球によって仕組まれた出来レースだった訳か…」
 これは現女王のティアティーヌも知っていることだろうか。知っていて彼女は見習いアニマルと中学生の彼女達を死線に送り出した。また時期女王のラテがこの事実を知った時に、何を思うのか。
「…ってなことで、私、口封じの為に殺されるかもしれないけど、そこんとこどう思う?ジョージ・クライ君」
「さあ、僕はあくまで好きな人がより明るい未来に行けた時にだけ現れる地縛霊だ。ビョーゲンズとヒーリングアニマルの関係は今聞かされてびっくりしたくらいだ」
「…まあ、そうさね。いや私も誰かに話して理論をまとめることが出来て良かったよ」
「だからきっと、その気づきは悪いことではないと思う。それを伝えにきた」
 …さしずめこれに気が付いたところで人間の立場はさほど変わらないってところか。地球にとって人間はこれからもがん細胞の如く増え続ける迷惑な存在であるだろう。それを放っておいたら、このジョージ・クライが体験した悲惨な未来が待っていたのかもしれない。
 だが、利用されているとは言え人間とヒーリングアニマルは共生関係にある。そして似たような仕組みの生物であるビョーゲンズも、上手く付き合っていけばカグヤの命を救えたみたいな技術に応用できるということか。

「私は人間を、どうしたいのだろうか」
「…さあ、それこそ僕の知らないことだ。ただ君にも、大切にしている人がいて、その人が幸せになれる研究をしていたのだろ」
「…ああ、人間の夢だけじゃない。ビョーゲンズとの共生も進めば、もっとカグヤの寿命は伸ばせるかもしれない」
「ふふ、羨ましいな、自分のしていることがまっすぐ結果に表れるなんて」
 一瞬カチンときた。私だって全部が上手くいっていた訳じゃない。私の苦労も知らない癖に表面上の結果だけ見て嫉妬するなんて、お前はやっぱり研究者じゃなくてただの野次馬だよ、って言おうと思ったが。
「…そっか、お前は救えない側だったんだな、ジョージ・クライ」
「今は悪になれたことで彼女を救えたから、それで満足だけどね」
「…そばに居られる私は、まだ幸運な方だったということか」
 人々の夢を集めなくても、カグヤを助けたいという思いだけでも特別な夢の持ち主であったように、私はもうちょっと自分の置かれている立場に誇りを持っていいのかな。
「ありがとう、ジョージ・クライ。私も自信を持つことができた…ってもういないか」
 自分の言いたいことだけ言って満足したら消えるか。本当に話通り身勝手な奴だったよ。
 …それとも今あいつと話すことも、未来を決定するのに必要なイベントだったのだろうか。
 私はカグヤとプリキュアに多大な迷惑をかけてたまに罪悪感に潰されそうになる時はあるが。
 私はまだやり直せる、ジョージ・クライと違って、ちゃんとカグヤの側にいられる立場になれていたのだから。
 今いる私の未来を、大切にしていこう。
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