小説

□Over The Horn そのC 結 + 合
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「葛鬼先生!起きて下さい。もう閉館時間ですよ」
 机の上でぐったりしている私を、早乙女先生が必死に起こそうとしていた。
「ああ…いいんです。早乙女先生。私はこのまま『天下一漫画闘祭』の精霊としてここで一生過ごすのですからああ」
「何を訳分かんないこと言ってるんですか!せっかく桃太郎先生に圧勝できたというのに」
 そう、チーム『斗鬼和荘』は作品の面白さで見事勝利したのだ、万歳!そしてそれは同時にチヨキチと結鬼さんも無事それぞれの役割を果たし、奴の洗脳計画を打ち破ったことも意味している。ランタさんの、未来の『英雄』から続く悲願がやっと成就したのである。
「…それにしても桃太郎先生どこいったのかしら。途中から煙のように消えちゃって」
 そして、奴の分身の姿もいつの間にか消えていた。現実世界に帰ってきたチヨキチの話を聞くまでは安心できないけど、良くて敗走、もしかしたら
「…もう、この世にいないかもね」
「え?葛鬼先生今なんて?」
「…いいえ、なんでも」
 ともかく私達は勝ったのだ。奴に会場から出るなという条件を守らせるのと、元に戻っていく漫画市場を見せつけることが叶わなかったのは残念だが、高望みはよそう。勝って、漫画界の未来を守ったことには変わりはないのだから。
「はあー」
 そんな凱旋パレードもののおめでたい空気の中なのに、私の溜息は止まらなかった。
「これで何回目の溜息ですか?幸せが逃げちゃいますよ?」
「だあってー」
 そう、一般市民としての葛鬼ルルなら、今頃そこら辺でサンバでも踊っているくらい浮かれているだろうが、漫画家としての私がそうさせてくれなかった。
「十二位…桃太郎の作品を覗いたとしたら私がドべ…」
 その事実が私を打ち上げムードにさせてくれなかった。そりゃ当初の目的は達成したとはいえ、これはこれでまた別問題できつい。今の私の業界内での実力差を思い知らされてしまったのだ。やはり二十一世鬼の漫画家達は強い。桃太郎なんかかわいく見えるくらいの化け物達なのだ。
「まあまあ葛鬼先生。あんな豪華メンバーだったんだからあの順位はむしろ打倒と考えるべきですよ」
「三位の早乙女先生に言われても慰めになりません!」
 そう私が涙目で見つめる早乙女斗鬼、我が恩師はあの面子の中で三位を記録し、最後まで優勝候補達との激戦を繰り返していたのだ。ああ、やっぱり私の目に狂いはなかったのね、さすがです師匠!
 そうこうしていると、閉館ムードの会場から一鬼、こちらへ向かってくる鬼を確認した。
「ルルちゃーん」
「結鬼さん!」
 私は飛び上がり、彼女の元へと駆けて行った。
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