小説

□ホワイトデーSS
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「おっはよールルちゃーん」

との掛け声と共に仕事場に入ると、そこには見慣れた光景が二つ。
一つは既に仕事入りしていた僕の雇い主兼、中学校からの同級生、葛鬼ルルがテーブルに座っている姿だ。
そしてもう一つが既に出来上がっている原稿。
一応自分への言い訳として愚痴っぽく言わせてもらえば、僕の雇い主のルルちゃん。
彼女は漫画家という職業柄、アシスタントという画業のサポーターとして僕を雇い、そしてルーチンワーク的な、安定したペースでの作業効率を維持するのが彼女の仕事においての責務なのだが…
いつもの風景の如く、僕が規定の時間内に出勤したころには、既に原稿を完成させてしまっているのが彼女の常だった。
…別に編集泣かせじゃなくて、特にクオリティにも問題なく納期に間に合わせているため全く問題がないのだが(これこそ愚痴っぽいのだが)、そうなるとアシスタントとしての業務としては最近何もやることがない事態が多いのである。
これで僕が「んもールルちゃん仕事早すぎだよー、少しは僕にも仕事やらせてよー」とか自分のヤル気を建前にした文句を言えるのならまだいいのだが、彼女場合は違う。

1:仕事場に入るとテーブルに座っているルルちゃん。
2:既に出来上がっている原稿

この状況が揃っているとまずい。ひっじょーにまずい。
何せこちらとしては真面目に出社している身なのだが、僕の上司様ときたらこの後大概
「遅い!」
とか
「もうこちとら仕事終わってんだよ!少しは空気読んで早出しろよ!」
とか。
バリバリ体育会系な理不尽を言ってくるものだから、こちらとしては1日の始まりから萎縮することを余儀なくされてしまうのだ。
漫画家業界といっても、やっぱり辛いものは辛いのよ?

とか覚悟を決めていたが…

「………」

ルルちゃんは特に何も言葉を発しようとはしなかった。
ちゃんと背筋を伸ばして、肘をついて顔を支えて目線をまっすぐとしているところをみると原稿を終えて寝落ちしているという訳でもなさそうだ。

そして部屋に入ってきた僕も見えているはずだ。

…っとなると。
これはもしかして、条件3のフラグ追加かもしれない。

3:なんかめんどくさいこと考えて集中している。

…なんかもっと厄介なことになりそうである。

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『ホワイトデーのお返しSS』

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