小説

□ホワイトデーSS:2
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…おかしい。

「ひえっールルちゃん、遅れてごめーん!」
「ああ、いいのよ。進行余裕あるんだし」

…何かが違う。

「あ、ごめん!ルルちゃん。ベタはみ出しちゃった!」
「いーのいーのそんくらいのイージミス。ホワイトでちょちょいでしょ。ほら貸してみ」

…中に別の鬼入ってるんじゃないかな?

「チヨ、ちょっと相談があるんだけど、聞いてくれる?」
「ふぁ!?」

…普段こんな言い出しなら大概怒られるようなことなのだが、今日のルルちゃんは何かおかしいくらい機嫌がよくて、僕は身構えてしまった。
(自分でいうのも情けないんだけど)いつもルルちゃんといえば常にキレ気味がデフォルトであり、こんな仏みたいな対応されてると何かしらあるんじゃないかと不安になってしまうのだ。
いやまあ別にルルちゃんが腹黒キャラという訳ではなくあくまで僕に対する対応がいつもそんなんであって、普通に外でいいことあってそのテンションを仕事場に持ってきただけかもしれない。普段外でのルルちゃんはニコニコ顔で、僕の顔見るとイライラスイッチオンするとか。
…あれ、それじゃあただ僕嫌われてるだけじゃね?
ととともかく彼女にだって外で良いことがあることくらいあるだろう。今朝から何か様子がおかしいのはそのせいなんだきっと。
…あれ、でもルルちゃん昨日から仕事場で缶詰めしてたはずだよな…まあともかく珍しくルルちゃんからの「めんどくさい逆ギレ」ではなく「相談ごと」だ。貴重な体験を無下にしないでおこう。

「あのね…チヨ…今日の私…きれい?」

「な、なんですとぉー!?」
「ほら、私いつも徹夜とかしちゃってるから肌荒れとかしてるでしょ?だから昨日はぐっすり寝てならべくイライラしないで美容にも一応気を使ってみたんだけど、どう?」
「ど、どうと言われましても…」

…う、なんだろう。
好きな女性に対して今さら気付いたように言うのも失格なんだろうけど、確かに今日のルルちゃんは綺麗だ。肌もつやつやだしチャームポイントの眼鏡も前髪のセッティングも気合いが入っている。
なのになんだろう、この気持ち。
女子力発揮中のルルちゃんを目の前にしてなんで僕は子供のころの口裂け女の「私綺麗?」の質問に対して何がベストなんだっけかな?ってこと考えてるんだろう。
「き、綺麗だよ。ルルちゃん」
「え、本当?やったー」
…まあ相手は鬼なんだし。口裂け女じゃないんだし。普通に思った通りのこと言えばいいんだよね…うん。

「よーし、今日のデート頑張っちゃうぞー」
「ぐはっ!」

…やっぱり間違いみたいでした。何を返答するにせよめちゃくちゃ凹む未来が待っていそうな詰みっぷりではあった。


ホワイトデーSS:2
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