小説

□ホワイトデーSS:10
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「んあーーーーーきもぢいいいいい!馬鹿になっちゅあうううう!!!!もうなってる!なってるから勘弁しげえええええええうぴいいいいいい」
「ふふふ、ルルちゃんの反応面白いね。それじゃあもう一段階気持ちいツボ、押しちゃおうか」
「あひいいいいい!!!!」
「・・・何だ、これは」
 ・・・僕は一体何を見せられているのだろうか。ホワイトデーSSのはずなんだけどもう原型がなくなってきているな・・・いや、今に始まったことじゃないけど。
 アヘ顔になっているルルちゃんの分、僕が冷静にならなきゃと頭は冷静に情報を整理していく。
 そう、ことの発端はコミケでついにルルちゃんと斗鬼先生が出会ったところからの続きだったはずだ。漫画家を目指すきっかけとなって曲がった角を持っていてもそのマイナスな部分を創作のネタにする強さを学んで生きる指標となった、ルルちゃんにとっての師匠の斗鬼先生。コミケで遂に再会を果たせた両者は漫画家としてのトークはほどほどにして何故かマッサージの話題で持ちきりになっていた。
 ・・・いや、何でマッサージ?振り返ったは良いけど相変わらずその流れが急すぎて訳が分からない。
「ふふふ、ルルちゃんが終わったら次はチヨキチ君だからね。覚悟してるんだね、君もこうなるよ」
「あへえええええ」
「えええ、い・・・嫌だな・・・」
 ・・・でも気持ちよさそうではあるけど、何だか踏み込んではいけない領域な気がする。
「君の角は羊さんみたいにくるくるしているからね。真っ直ぐ生えていない分重量も重いから、余計に首や肩への負担も大きいだろう。こりゃマッサージしがいがあるねえ」
 ・・・そう、奇形の角持ちの鬼は首肩が凝りやすい、って話題からこの流れに発展していったんだ・・・斗鬼先生・・・伊舞鬼先生みたいに電波を読む能力とかもあるんじゃないかな・・・鬼の身体に精通しているみたいだし、それはマジでありそうである。
 そう、斗鬼先生曰く、鬼は元々角の重量も含めて首の太さがアンバランスで余計な重量を支えなければいけないから首に負担がかかりやすい生き物である。それは更に変形した角を持っている鬼達にとっては更にバランスが悪く、姿勢が悪くなって健康を害する悪循環に陥るケースが多いみたいだ。
 ルルちゃんは奇形の角から劣等感を覚えて創作の道に入る・・・って持論を展開していたけど、斗鬼先生に言わせればまずは物理的に筋肉量が少なくなって健康を害してしまうのが奇形の角を持つ鬼の特徴だとか。何だか医療的な会見だ。前に僕のお母さんもそんなこと言っていたような気がする。
「むむむ〜、でもよく見るとチヨキチ君・・・さすが鍛えているだけあるね、パッと見た感じでもいい首の筋肉してるよ。これはルルちゃん程の反応は期待できないかもねえ」
「はあ、やっぱり鍛えていると違うものなんですね」
「・・・ってルルちゃんの前で言わない方が良いのかな?ただの漫画家である君が結構良い身体しているの」
「うへへ・・・肩が軽い・・・天国」
 ・・・って僕も後からしまった、って思ってしまったけど、今のルルちゃんはヘブン状態だから大丈夫そうではあるかな。
「そりゃまあ、戦士にとって大切ですから、首」
「だね〜、私も鍛えてみようかな?肩こりは鬼の永遠のテーマですからねえ」
 ・・・っとふざけている風だけど、斗鬼先生本当にどこまで知っているんだろう。今はルルちゃんについてきてつい一緒にいてしまっているけど、斗鬼先生だって本当に安全な鬼かだんて分からないんだ。
 ・・・確かにコミケの時は助けてもらったけど、あれも僕たちを騙す演技って可能性もなくもないだろう。ルルちゃんの恩師なので疑いたくはないけど。
「でもまあ私もバトル漫画を書くから頭でっかちではあるけど武道についてのコツみたいなのは知っているつもりだよ。筋肉量や技術力はある前提、経験もそれなりの戦士にとってあるていど技を極めたあやらゆる分野の専門家がぶつかる壁って、何だと思う?チヨキチ君?」
「え・・・さあ、何でしょう」
 ・・・とは言っても僕も戦士としてはまだまだ未熟だからそんなレベル高いとこまで考えてないんだよね。漫画家としても優秀な斗鬼先生だからこそ、そういった武芸の深いところまで取材しているのかもしれない。う・・・この探究心自体僕も漫画家として負けているところだよな・・・
「まあ理論で語るより実際見てもらった方が早いかな。今のルルちゃんの状態だよ」
「え・・・今のルルちゃんって・・・」
「うへ・・・いへえ・・・」
 ああ、駄目だ。とても描写できない顔してる・・・こんな顔を僕の前でするってことはやっぱり男として見てもらってないかもしれないけど、単に斗鬼先生の骨抜きテクニックがすごかっただけなのかもしれない。
「力抜けたいい顔してるだろ。力を抜くってことは実はものすごい技術なんだぜ?チヨキチ君」
「はあ・・・力を抜く・・・ですか」
「・・・その目だと『力を抜くとか何をふざけたこと言ってるんだこの鬼は?真剣にやったほうがいいだろ』とか思ってるでしょ?」
「いや・・・そこまでは・・・」
 そもそも僕レベルの鬼だと斗鬼先生からしたら力を入れてるも入れてないもどっちも同じような気がするな。無論戦士としても漫画家としても。
「そもそもこの重力下に産まれている生物である以上はどうしても重力から自重を支える。力はどうしても入ってしまうものだよ。宇宙の作品を作る時に取材するだろ?無重力から帰ってきた鬼は地上にくると立つのも苦労するとか。我々は普段こうして姿勢を取っているだけでも重力に逆らって筋肉を常に稼働し続けているんだよ。それさえも力を抜くとなるとさすがに立ってられないけどね」
「えっと・・・つまり、何を言いたいんです?」
 僕に赤ちゃんみたいになれってことだろうか。普通にしているだけ優男だってのに、重力にも負ける赤ちゃんに返れということだろうか。
「結局のところ誰も『赤ちゃんに戻れ!』って言われて出来る奴はいないだろ?力を抜くってのはそれだけ高度な技術なんだよ。こんな話がある。赤ん坊を高いところから落としたとしよう」
「なんて酷いことを!」
 え!まさか先生!漫画の為にそこまでするとは・・・!
「・・・何か勘違いしているみたいだね。取材で読んだ記事のことだよ。あくまで一例に過ぎないみたいだが、何とその高いところから落ちた赤ちゃんには怪我がなかったみたいなんだよ」
「はあ、何でだろう・・・」
 赤ちゃんなんて身体が弱いはずなのに・・・
「赤ちゃんは基本前進の力が抜けているからね。大人になるに連れて身体が出来上がってくると、衝撃が来る!って身構えて身体が硬くなると逆に反発のダメージが大きくなって怪我が大きくなってしまうんだ。これは何も武道の世界だけの技術ではない。上手な力の抜き方っていうのはどの業界でも衝撃に対する最も有効な防御手段なんだよ、チヨキチ君」
「はあ・・・そういうものですか」
 固いものの方が壊れやすい。ダイヤモンドは欠けやすいみたいな話かな。それって身体の柔らかさにも通ずるんだ。
「・・・だからと言ってルルちゃんをここまでにしなくても・・・」
「しなしな・・・」
 本当ならルルちゃんにこんな顔させるのは僕のはずなのに・・・いやいや、師匠である斗鬼先生を差し置いてそんなことできないけど・・・っていうかこんな顔になるの想定してないよ!
「・・・特に奇形の角を持つ鬼は・・・なんだけど、武術とか関係なしにただでさえ重い角の着いている鬼は首に負担がかかりやすいからね。角が曲がっているとその分重くなるし重心のバランスが崩れる傾向もあるし、単に首肩が凝りやすいっていう身体的特徴もある。ルルちゃんにはこのあとちゃんとした整体を紹介するつもりだよ」
 奇形の角を持つ鬼は肩が凝りやすい、か。母さんも後頭部が硬くなっているとか言ってたけど、こんなところで繋がっていたんだな。
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