小説

□ホワイトデーSS:11
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「んあああああきもぢいいいいい!」
「・・・ってあれ?去年と同じ導入!?」
「チヨ、去年って何を言っているの。この間斗鬼先生から教えてもらったマッサージ店に来てるところじゃない」
「ああ、そうだった」
 ・・・ってこのコーナー十年近く続けているけど今更ルルちゃんからまともなツッコミがきてしまうと反応に困ってしまう。しっかりしろ、一応僕がツッコミ役というポジションなんだから。
 そう、今年のホワイトデーSSは前回のコミケがやっと終わって斗鬼先生から紹介されたマッサージ店に行ってみたところからスタートである。前回と違うポイントがあるとするなら今日は斗鬼先生がいないといったところだろうか。いよいよ導入の仕方まで一緒になってきて変化があんまりないよな。
「でも斗鬼先生に言われた私の身体の仕組み・・・少しずつ分かってきたかもね。少し意識するだけでこんなに世界の見え方が違うだなんて」
 ・・・っと当のルルちゃんはその少しの変化が結構な違いがあるみたいだから、水を差しては悪いかな。今回はお邪魔をしてくる斗鬼先生もいないことだし、ルルちゃんの感想をしっかり聞いておこう。
 ・・・何度も言っているけど、これ全然ホワイトデーと関係ないよね?あー、これを言ったらいよいよ今年のホワイトデーがスタートしたなー、って気分になるね。
「ってなことでルルちゃん。あれからじっくり整体に行ってみて改めて自分の身体と向き合ってみて、新しい発見はあった?」
「ええ、完全なるリラックスは難しい!鬼は肩こりから逃れられない運命にある!」
 ・・・ってさっきめちゃめちゃ気持ちよさそうだったけど、あれはルルちゃん的にはまだまだだったのか。
「こう・・・自分の身体のバランスが悪いのは確かに分かったわ。でも元々鬼の身体の構造って無理があるのもわかってきたのよね。斗鬼先生も言っていたみたいに元々角の分まで首の筋肉で支えるようになってないみたいなのよね。ほんと、誰がこの角付けたのかしら」
「・・・それは・・・」
 ・・・って何か事情を知ってそうな斗鬼先生だからルルちゃんに鬼のルーツのヒントを与える為に近づいたのかもしれない。あるいは僕の口からポロリとさせて事を進展させるためとか。っとは言え僕はルルちゃんを自分の一族の問題に巻き込むつもりは毛頭ないのでそこらへん甘く見られていたら斗鬼先生の計算違いである。元々僕はそんなに重要な情報を任されている立場じゃないんだけどね。えっへん。
 ・・・って自慢している場合じゃないな。
 っていうか斗鬼先生こと漫画の取材とは言え桃太郎に関する情報を集めていつか火傷しないか心配である。あの鬼のことだから今まで何回も修羅場にあってもう慣れているかもしれないけどね。
 ・・・斗鬼先生がぎゃふんとしているところ、みてみたいけど全然想像が付かない。
「ってなことで私はこの整体生活で今までの身体の歪みを正しい位置にして、してみても肩こりが治らないことが分かって次にやることと言えばそう・・・」
「そう・・・?」
「首の筋肉を鍛える!オア!」
「オア!?」
 首の筋肉を鍛えるのはこの間も斗鬼先生が言っていたからここから先はルルちゃんのオリジナルの回答なのだろうか。何て応えるんだろう。
「まあ斗鬼先生の受け売りなんだけど」
「・・・って結局斗鬼先生の息がかかっていた・・・」
 斗鬼先生の遠回りのルルちゃんの洗脳疑惑は・・・まだ解けないってことか。っていうか僕の聞いてないところで普通に斗鬼先生と話しているんだよな。普通に僕はもう蚊帳の外で色々ことは進んでいるのかもしれない。
「Hをして身体の内側から脱力することを覚えます」
「・・・え?」
「いや、だからHをして・・・」
「ちょっとまてーーーーい!」
 斗鬼先生!!!え!?!?!?ルルちゃんに何を言ったの!?大丈夫!?このコーナー!?10年以上やってきて今この瞬間が一番やばいと思うんだけど!僕一回死にかけたけどその時よりもやばい!
「え・・・ルルちゃん・・・その・・・したの、誰かと」
 って僕もそこらへん何にも知らないからどこから話したらいいのか全然わからない。っていうかこの聞き方であっているのだろうか。じょ、女性にこんなこと気軽に聞いてしまって失礼ではないだろうか。いや向こうの方から気軽に言ってきたんだけど。っていうかもしかして僕!異性として見られてない?そんなの昔からか!ガハハ!(混乱)
「いやしてないんだけど・・・っていうか相手いないし」
「そ、そうだよね・・・ほ」
「何ため息ついているのよ」
「いや・・・何でも」
 って脳を破壊している場合じゃないな。とりあえず普段のルルちゃんからそんな素振りは見せてないしそんなのいないの僕が一番分かっているじゃないか。うんうん。って女の子ってそういうの隠すの上手いから実はルルちゃんにもそういうパートナー実はいましたー、って展開もいつかは来るんだろう。ここで安心している時点で僕はまだまだなのかもしおれないな。本気で取られたくないのなら自分からいかなくては駄目だろう。
 ・・・でも僕の家って事情が重いからなーーー!
 ・・・って家庭を理由にしている時点でやっぱりヘタレだな。
 少し脱線はしてしまったけど多分斗鬼先生のいつもの突拍子のなさ過ぎるアイディアだと思うから話だけは聞いてみるか・・・
「で・・・何でこの局面でHな話が出てくるの」
「いや、斗鬼先生曰く身体を全開に脱力できる手段はずばりエクスタシー。身体の芯からもうゆるゆるになるみたいなのよね。普段重力に耐えている筋肉も一気にリラックスして液体みたいに溶ける感覚を味わえるみたいなのよ。あんたはそれ実感したことある?」
「いやないけど。ルルちゃんは?」
「私だって無いわよ!相手いないもん!」
「僕だっていないよ!」
 って何なんだよ!この会話は!段々してきて悲しくなってくるわ!
「あとは脳内麻薬を合法的な手段で適量出せるみたいね。そもそもが普段の生活でほとんど出てこないから適度な性行でちゃんとそういったホルモンを出すのは健康にも良いみたいなのよね。ほら、鬼って使わない器官はどんどん退化してしまうって言うじゃない?使えるうちに使っておかないとね。だったらこの角も早く退化せーちゅー話なんだけどね!まあ私はこの角のおかげで漫画家になれたようなもんだから商売道具のようなもんだけどね、がっはっはー!」
「・・・・・・・・・」
「あれ、どうしたの、チヨ、急に黙っちゃって」
「いや・・・その」
 ルルちゃんが素直に話してくれたのが嬉しい反面、でも素直に話してくれたから悲しいって気持ちが二つある。こうこの際脱力がどうとかいう話は全く耳に入ってなかった。緊張しっぱなしである。
「まあ用は性行体験って鬼の本来の身体能力を引き出す手段の一つでもあるみたいなのよね。あ、女子はそうだって言われているみたいだけど男子はどうなのかしらね、チヨ、あなたはHしたことある?」
「だからないって言ってるだろ!!!」
 ってキレ気味に言ってみても。
「・・・まあそりゃそうよね。私とほとんど一緒に仕事していてそんな素振り見せないからね。でも斗鬼先生があそこまで言うのだからきっともの凄い効力があるはずよね。いつか私もしてみたいなあ。そしたらまた別ベクトルで身体の歪みが治せるのかしら。そして新しい発見とかあったりしてね。漫画家である以上は面白い作品を書くために何でも経験しておきたいからね。面白い作品を書きたければ恋をしろ、Hな体験をしろってよく言われているもんね。まあ確かに青年向けは書けば成功しやすいジャンルではあるから狙い目ではあるんだけどね。はー、どこかにちょうどいい男はいないかしらー」
 だ、駄目だ。もう限界だ・・・このシリーズ10年以上やって来て、ここが僕の心の限界かもしれない。僕の不甲斐なさでこのホワイトデー企画が頓挫するみたいで無念ではあるけど・・・
 っていうかもう本当に関係ないじゃないか、ホワイトデー。何でこんなんになっちゃったんだろ。

「うわーーーー!ごめん!ルルちゃん!」
「ってチヨ!どこに行くのよ!このあとあんたの番なんだからね!」
 っと僕が男として全然意識させられてないのを分からせられてしまって、思わず逃げそうになってしまったけどそう言えば僕はこのルルちゃんのあとにマッサージの予約を取っていることを思いだして一瞬お金が勿体なくて止りそうになる。こういうところも含めて僕は情けない男なんだな、って自覚が湧いてきてより自分が嫌いになる。
 どうしようか、このままやっぱりお金が勿体ないから足にブレーキをかけた方が良いのか
 それとも男のプライドを優先してルルちゃんへの意思表示としてこのまま走り去った方が良いのだろうか。走り去ったとしてどこに去る?そもそも今時そんな男のプライドがどうたらと言っても流行らない世の中になってきた。本当に嫌な思いをした感じたのなら今ここで言う方が男らしくないんじゃないのか?いやでも僕もあの極楽マッサージを体験したらきっとへにゃへにゃになって怒りがどうとか忘れてしまうかもしれない。いやいやそれで忘れる怒りならそもそも最初から怒ってないんじゃないか?僕の感情って結局それくらい微弱なものなんじゃないだろうか。だから漫画がつまらないんだよ。あ、そうだ。僕のマッサージが始まる前に言えば良いんだ、そうしよう。でもマッサージ店の人に悪いからちゃんと施術が終わってからのインターバル中に言った方が良いかな?周りの鬼に迷惑かけてまで僕の感情を優先する訳にはいかないよね。

 って。

「あああああああああ!!!やっぱりこんな自分!嫌だあああああ!!!!」

 っと結局ぐだぐだ言い訳を考えてしまう自分が憎い。僕はどっちにもなれない鬼なんだ。この際だから心を空っぽにして喜怒哀楽無くした状態で生きていた方がマシだと思える。

 こんな自分に。

 恋なんてしてくれる鬼がいる訳ないだろ。家柄とか見た目とか関係なく、こんな僕自身が恋をしている場面を想像できない。ましてやハングリー精神の塊であるルルちゃんの隣にこんな軟弱な男がいてはいけないだろう。
 ・・・やっぱり、心を無くすなら無くすで、とりあえずこの場から離れてからゆっくり精神を崩壊していこう。
 さようなら、ルルちゃん。この十年余り、何やかんや楽しかったよ。

「・・・ってチヨキチさん?そんなところで何をしているんですか?」
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