プリキュア創作3

□遼じいとさあやのデネブ
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「…こんにちは…遼おじいさん…?」
「おや、君は確か。薬師寺さあや君かな。ひかるちゃんのお友達の。どうしたんだい、クリスマスの時期だと言うのに」
私は何故だか大急ぎでこの天文台の星が無性に見たくなってしまった。
さっき見た変な夢はあくまで夢で。
ほまれはちゃんとハリーに失恋できたし。
ハリーも自分の故郷を守るために帰っていった。
あの未来は絶対に訪れないと分かっているはずなのに。

…やっぱり、私は覚悟しきれなかったんだと痛感してしまった。

「…少し、星を観ながら心の整理をしたいんです…今日はもう閉館でしょうか」
「…いいんや。この天文台は営業時間関係なく、星を観たい人がいた時にいつでも受け入れる体勢を整えてあげたいと思って作った施設だよ。どうか遠慮しないでね」
「…ありがとうございます」

…ひかるちゃんがやっぱり羨ましいな。
こんな、一人で考え事するのにちょうどいい環境に恵まれていて。

「………」

遼おじいさんにお願いして冬の空を映してもらっていた。
冬ははぐくみ市でも早朝に空気が澄んでいて一番星とかよく見える。
川も、丘も、街並みが優しくてずっと生きていられると思えるあの町は、私が思うに冬の空が一番似合っていると思う。
少し寂しいと思っても、星と星がちゃんと輝いていて、遠くにいるようで手の届かない距離を保ってくれる、あの空に抱えられていると一人じゃない、って思えるんだ。
…よくランニングしているほまれからもよくそう聞かされていた。
人は一人かもしれないけど、どこかで見えない線で絶対に繋がっていると改めて思わせてくれる空。

私が今朝見てしまった夢も、別にバッドエンドという訳ではないのだ。
ほまれの初恋が仮に成就して、ハリーも残っていたとしても。
私とほまれはおばあちゃんになってもお孫さんを通して交流できるお友達になれている未来。
夏の頃は、最悪それでもいいかな、って漠然と思っていたけど。
いざ、追体験のような夢を見てしまうと。

やっぱり、わたしの覚悟は所詮はごっこだということを思いしることになってしまった。
無理。
その二文字が脳裏にやっと浮かんできて、ツーっと頬から一線のラインを描いていた。

「…まだしばらく、お邪魔しない方がいいかな」

っとぼけーっとし続けているといつの間にか三十分以上経っていただろうか。パロラマに映った星空の映像の時間が切れてしまって普通の天井に戻る。
遅れて、こんな私を心配してくれる遼おじいさんの声が聞こえてくる。

「…ああ、いえ。大丈夫です。だいぶ落ち着いてきました」
「…そうかい、それは良かったよ」

っと、それとなく距離を置いて遼おじいさんは私の近くの椅子に座った。

「僕も悩み事があったら星を観て漠然と考えを巡らす子供だったからね。いつでもどこでもそんな場所を提供するのが夢だったから、それが叶って嬉しいよ」
「…遼おじいさんも」

…これを聞くのは失礼かもしれないけど。

ちょっとだけ落ち着いた私は、ともかく何かしら感情を言葉にして整理したくてたまらなかった。

「…星を観て、嫌なこととか怖いことを忘れようとしますか?」
「…まあ完全には消えないけど、整頓は出来るかな。世の中から嫌なこととか劣等感や他者との摩擦は絶対に消えないけど、それは自分もまた一つの星として独立している証拠だって自分を見つめ直すことが出来るから。現実と空想とエゴを仕分けして、消えなかったものを繋げていって、改めて自分とどの星を繋げてどんな星座を描こうか、見直す機会にする」

…そうだ、私の場合は別に現実の心配をしていた訳ではないのだ。
あったかもしれない未来。
忘れる以前にもう霧みたいに消えてしまった未来。
私は私として、今のほまれとどう付き合っていくのかを考えれていればいいのだ。
そんな、あったかもしれない並行世界の話はそれこそさっきの映像みたいにスイッチを切れば消えてしまうような夢想だ。
創作ノートに書く間でもない戯言。
…でも、もしかしたら。

「星を観てると、たまに別の世界の自分とメッセージをやりとりしてると思えちゃうんですよね」

やあ、そっちの世界はどうだい。
こっちはこっちで辛いことがあったけど、まあ楽しくやってるよ。
みたいな。

「…変な話でしょうか」
「…まあ、宇宙は広いからね。もしかしたら地球と似た環境で自分と似ているけど、ちょっとだけ違う自分がいても不思議じゃないよね。けどね」

遼おじいさんはゆっくりと立ち上がって、天文台の更に先にある宇宙を見据えているようだった。

「たとえ向こうの世界を傍観してようとも、想像力を働かせようとも、君は宇宙の向こうの自分になれないしこっちの世界の輝きを信じて勇気を出していきていくしかない」

傍観者には何も出来ない。向うの自分を、視線の先の世界に干渉できる訳でもない。
向うの世界の自分の願い事を叶えられるのは。
今の自分の勇気だけだ。

「…僕は告白したり、自分を変えようと努力している人みんなを応援しているよ」

別にほまれのことを言っている訳ではないけど
何となく、遼おじいさんの人生とも、向こう側の宇宙の話と私のことがリンクできたんだろうか。

「…遼おじいさんは…」

これを聞いたら本当に失礼になってしまうかもしれない。
それでも、私は。
さっき夢に見たもう一人の私がそこにいるかのように、聞いてしまう。
告白とはまたちょっと違った勇気を出して。

「…自分の選んだ道に、後悔はないって言い切れますか」
「…全くないとは言い難いね。僕は夢に生きてきたつもりだけど、多少は混ざるさ。雑念みたいなものが。これでも人間だしね。普通から外れる恐怖や差別は普通に嫌だよ。だからこそ、中途半端な傍観者な立場だから言えることではあると思うけど」

きっとどっちの道を選んでも
僕は辛かったと思うなあ。

「だからせめて、僕はどうせ苦しいのなら自分で選んだ苦労を選ぶよ。向こう側の世界の苦労はそれこそ星を観て思いだけに留めておくとする。そして似たような悩みをもった若者がこの星を観て心を整理できる時間を設けられる立場になるのなら、その助けになってあげたい。見方を変えれば、星座も星も違った解釈になれるんだって気付くきっかけになってほしい」

僕は僕の人生を歩むけど。
僕みたいな失敗はしてほしくない。
同じデネブみたいな存在でも、価値観を変えれば違う役割になれるんだよって伝えてあげたい。

「…多少、それを考える時間ができたのなら、僕は君を助けることで向こうの世界の自分と過去の自分を助けてあげることが出来たと思えるよ」
「…遼おじいさん…」

あなたの人生も、まだまだこれからだと思いますよ。

っと、私は言ってあげるべきだったかもしれないけど。

ちょっとだけ、残酷な言葉を選んでしまう。

ああ。やっぱり私の本性って、天使じゃなくて悪魔なのかな。クリスマスだってのに。

…けどいいか、もう良い子でいなくても。

私はハリーの代わりにほまれを守れる、薬師寺さあやでいたいもんね。

「…私はもっと上手くやって見せます。好きな人と一緒に生きるために」

「…うん、頑張ってね。応援しているよ」

席から立って遼おじいさんと同じ目線で天文台を改めて見上げた時。

確かに、その先にある宇宙が透けて見えるような気がした。

…ばいばい、向こう側の私。またたまに遊びにくるね。

私は違うデネブになって見せる。
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